Itaniumの将来は風前の灯か?伴大作の「木漏れ日」

9月17日の6コアXeonの発表と、それに連動した各サーバベンダーの動向から、Itaniumの将来を調査してみた。

» 2008年09月29日 08時00分 公開
[伴 大作(ITCジャーナリスト),ITmedia]

 9月17日、NECは米国ユニシス社と共同で開発したハイエンドサーバ製品「Express 5800 A1040/A1060」を発表した。

 この製品に1つのCPUに6つのコアを搭載したインテルの最新型Xeonプロセッサが使用されている。今後3年間で、両社合計、1万台の販売を予定しているという。

 わたしは、同社の発表を受け、奇異な印象を持った。なぜなら昨年10月にItaniumの新製品が発表されており、NECは「ハイエンドでミッションクリティカルなシステムにはItaniumを搭載する」と再三、言い続けてきたからだ。

 もちろん、現時点で6コアのXeonを搭載した製品を発表した企業は、NECとIBMの2社に限られているが、インテルの発表会において製品出荷を明らかにした企業も多い。6コアXeonの出荷予定は10月下旬であり、それまでに追随する企業があるかもしれない。

 これはさらに掘り下げて、企業ユーザーに正確な情報を提供する必要姓があるのではと考えた。

64ビットCPUの採用状況

 まず、サーバベンダー各社のフラッグシップマシンにどのようなCPUが使用されているか、特にItaniumの販売実態に関して、聞き取り取材を行った。

 ほかのベンダーもIA-64アーキテクチャのサーバを製造してはいるが、主力はXeonを搭載したマシンである。Itaniumが主役だとはいえない。その上、どのベンダーもおおむねハイエンドサーバの出荷台数を明らかにしていない。さらに、ブレードサーバ、ラックマウントサーバ、タワー型サーバの出荷台数は渾然一体となっており、ほとんどその実態がつかめない。特にItanium、Xeon、そして各社独自のCMOSチップの区分けは見えにくい。そこで、読者の理解を得る意味から最初に、どのベンダーが、どの64ビットCPUを採用しているか、次いで、それぞれのCPUのシェアを推定しようと試みる。

 基本的な組み合わせは、IBM=Power、HP=Itanium、NEC=Itanium、富士通&SUN=Itanium&SPARC64となる。Dellはハイエンドサーバをラインアップしていない。

 NECは自社のハイエンドサーバにおいて、HP-UXを搭載したものについてはHPからPA-RISCのOEM供給を受けている。つまり、すべてItaniumだというわけではない。NEC広報によれば、UNIXサーバ(PA_RISC搭載サーバを含む)の出荷台数は約4500台だという。

PA-RISCからItaniumへの移行を進めるHP

 HPは、PA-RISCを搭載したハイエンドサーバを相当数扱ってきた。またHPが買収したDECおよびタンデムの製品に関しては、前者はアルファ64、後者はMIPS製のCPUを搭載していたが、現在はほぼItaniumへの移行が完了しているようだ。日本HPは同社が出荷するサーバ製品の出荷数開示に関して、また、直接あるいはOEM経由の販売経路別の出荷情報も完全にノーコメントを貫いており、これ以上の詳細情報を入手するのは不可能である。だが一説によると、同社のハイエンドサーバ(Superdome)の出荷台数は約1000台程度だといわれている。

SPARCチップにコミットする富士通

 富士通のハイエンドサーバ「PRIMEQUEST」は、同社がこれまで培ったメインフレーム用OS、MSPを搭載する作業が行われず、WindowsおよびLinuxをOSとするサーバ製品となる。出荷台数は少数にとどまっている模様だ。

 ただし、同社はサン・マイクロシステムズ(以下、サン)のSPARCチップの製造を行っている。これを搭載したサーバ製品も自社の製品「PRIMEPOWER」としてラインアップに加えている。

 さらに昨年、サンとの間で、PRIMEPOWERを廃し、ハイエンドCPU「SPARC Enterprise」を一手に生産供給すると合意した。この合意を受け、2007年の年度末に大量の「PRIMEPOWERの駆け込み受注」が発生したと、富士通は公式に認めている(昨年のSPARCサーバ製品の販売合計台数は1万4600台。すべてがSPARC64製品だ。ちなみにメインフレーム製品は独自のCMOSを搭載し、年間販売台数はおよそ300台だと公表している)。

ゲーム機やイメージング製品をカバーするIBM POWER

 IBMは、64ビットCPUはすべて自社の「POWER」でまかなっている。POWERは日立製作所のサーバにも採用されている。

 ハイエンドサーバに搭載され、出荷されたPOWERの数は、年間約1万個を超えるだろう。これに加えPOWERは、任天堂、ソニーなどが手掛ける家庭用ゲーム機、リコー、キヤノンなどのイメージング製品に組み込まれて出荷されており、その将来はある程度担保されていると考えられる。

 SPARCは富士通のコミットメントに加え、ネットワークサーバや科学技術分野で根強い人気を保っている。クライアントマシンへの搭載も期待され、年間2万個以上の出荷は期待できる。

ハイエンドとミッドレンジの垣根の消失

 対してIA-32市場の図式を見てみよう。Xeonを採用するベンダーはHPに加え、Dell、国内各社、IBMなど実に多彩だ。出荷台数も数100万台のオーダーに達し、製品もタワー型、ラック型、ブレードタイプと幅広い。つまるところ、“花盛り”の様相を呈している。そうなるとIA-32で高性能な製品、つまりXeonの進化型(クアッドコアあるいは6コア)に将来性があると考えるのは自然なのかもしれない。

ハイエンドサーバの選定条件はパフォーマンスのみではない

 今回行った一連のインタビューからは、結果として、Itanium系列の製品の将来性に対する不安が深まった。今回の6コア製品の投入で処理速度での優位が失われつつある現状を考えると、結局、Itaniumを支えるベンダー各社が生産するItanium搭載高性能サーバの出荷数が劇的に増加しない限り、Xeonを搭載したサーバに優位性を奪われてしまう可能性を憂慮する。Itanium搭載サーバの将来は「前途有望、安心して採用すべし」といえる状況にないのは確かだろう。

 ただし、ユーザー企業がハイエンドサーバを選定する上では、信頼性、可用性、運用性など複数の要素を総合的に勘案すべきであり、特定の状況でのパフォーマンス(やコスト)だけで結論付けるべきではない。しかし、高価だが高性能、システム構築も容易だとされた製品が価格性能比で市場から消えていった歴史を、筆者は数多く見てきた。良い製品というだけでは生き残れない。それが市場の定めだ。Itaniumに代表される64ビットアーキテクチャの普及に向け、インテルを筆頭に各ベンダーには、ユーザーが進んで導入したいと考えるよう、努力を続けて欲しい。

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