グレイトCIOへの道――コアコンピタンスの議論に異議ありサバイバル方程式(2/2 ページ)

» 2008年09月30日 15時09分 公開
[増岡直二郎,ITmedia]
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日本のCIOの実情

 しかし、米国のようにCIO制度に歴史があり、制度が定着していて、CIOの重要性が各方面から充分に認識されている場合は、以上のような議論で足りるだろうが、歴史も浅く、いまだにCIOに対する認識が不充分な日本において、同じ議論をすることに無理がある。

 次は、日本のCIOの実情を象徴する3例である。

 電子機器メーカー中堅企業A社のCIOであるB取締役は、自分の役割を情報システム部の「保護者」であると認識しているようだった。例えば、情報システム部への批判・攻撃を敢然として受けて立った。システムデバッグや運用トラブルが出ると、Bは他部門からの批判をかわす防波堤となった。従業員の勤務評定会議があると、Bは他部門の点数を下げてでも情報システム部構成員の点数をいかに積み上げするかに腐心した。

 電気機器販売C社のCIOであるD取締役は、情報システム部門の出身だけあって情報技術には造詣が深かった。Dは大変な勉強家で、ITの先端技術についての勉強を常に怠らなかったし、多くのシステムに関わってきたので業務にも詳しかった。しかしもともとトップの子飼いで、トップに対してイエスマンだった。DからIT戦略らしきものは出たことがないし、強烈なメッセージも出たことがない。Dの存在はトップからも軽んじられていた。

 大企業E事業所のCIOであるF経理部長は、ITには全くの素人で、ITに関する経験も知識もまるでなかった。しかし、3点についてはしっかりした信念を貫いた。1つは、E事業所のIT戦略をいかに進めるかを常に考え、部下の意見や外部の意見に充分耳を傾けるように心がけていた。2つには、CEOに相当するE事業所長と意思の疎通を図ることに常に留意し、E事業所の事業戦略や経営についてCEOと意見を交換した。3つには、情報システム部とライン部門との間で人材のローテーションを心がけた。全員にラインを経験させるのだと公言していた。

 3者3様、それぞれ長所・短所があろうが、詳細に記述された日米CIOコアコンピタンスを見るにつけ、Fに見たような素質についての記述が不足しているのではないか。

 すなわち、人間力を前提とした経営者としての総合力、そこで得られる仲間からの支持、そして何よりもCEOからの絶大なる信頼、これを仮にCIOの経営総合力と呼ぶことにする。

 本来のCIOのコアコンピタンスをCIOの必要条件とするなら、日本のCIOには充分条件としての経営総合力が求められる。

 これが、コアコンピタンスに具体的に記述されなければ、日本版コアコンピタンスは実用に耐えないであろう。

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プロフィール

ますおか・なおじろう 日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを歴任。その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。現在は「nao IT研究所」代表として、執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)


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