ウォール街の「壮大な」リスクマネジメント崩壊IT企業にさまざまな影響(1/3 ページ)

ウォール街の現在の危機は、IT業界にもっとシリアスな問題が近づきつつあることを警告する経済的な心臓発作にすぎないかもしれない、とITの専門家たちはささやく。

» 2008年10月03日 14時43分 公開
[Chris Preimesberger,eWEEK]
eWEEK

 ウォール街の現在の危機は、IT業界にもっとシリアスな問題が近づきつつあることを警告する経済的な心臓発作にすぎないかもしれない、とITの専門家たちはささやく。RSAの著名なデータセキュリティエグゼクティブは、リスクマネジメンがコントロール不能になったと話す。コンシューマー向けの製品を開発するIT企業は、今後、デザインが新しい、あるいはより高性能になったというだけで、無理に買い換える必要のない人々に新製品を売りつけることは難しくなるだろう。iPodのように。

 ニューヨークとワシントンを襲った2001年9月11日の同時多発テロ以降最悪となった今回の株価暴落は、米国のすべての企業に打撃を与えた。IT産業もまた、ソフトウェア、ハードウェア、関連サービスを含め、すべて例外ではなかった。実際のところ、金融機関は本質的に最も重要なITの消費主体だ。事実上すべての業務をWebやITシステム上で行っているだけでなく、ウォール街の危機がもたらす影響についても、すべてITツールやサービスを利用して記録、分析を行っている。

 ウォール街の分析では、経済的損失をくい止め、納税者と企業を保護するために連邦政府が打ち出そうとする政策の不確実性と、投資家たちが失った莫大な資金は、いずれも1つの決定的な要因を暗示している。すなわち、金融セクタにおけるリスクマネジメントメカニズムの崩壊である。「今回の金融不安は、貧弱なリスクマネジメントが引き起こした壮大な失敗例だ」と指摘するのは、世界最大のデータセキュリティ会社の1つとして知られるEMCのRSAセキュリティ部門社長、アート・コヴィーロ氏である。

 EMCは世界最大の外部ストレージメーカーであると同時に、仮想化のVMwareやコンテンツ管理プロバイダーのDocumentumを配下に置く巨大コングロマリットだ。同社は9月29日の株価下落で、時価総額235億ドルの10%近くを失った。

 「われわれはこうした危機を回避する仕組みをいくつも用意している。しかしビジネスには常にリスクがある。規制当局や企業は、今日のビジネスのスピードを十分認識していなかったようだ」とコヴィーロ氏は語る。

 「また最近の複雑な金融商品の場合、20代、30代の若い人々が背景のリスクを考慮せずに構築したシステムをちゃんと理解するには、応用数学の博士号レベルの知識が要求される。ビジネスのスピードとそうした複雑さとが絡み合って、さらに大きなリスクが形成されていたにもかかわらず、そのリスクを誰1人評価しなかったことが今回の事態を招いた」

 ビジネスが猛烈なスピードで進むこと自体は悪い話ではない、とコヴィーロ氏は言う。それによって企業の生産性は大きく上昇するからだ。

 「ただし、それとともにリスクが高まることも理解しなければならない。そこに新たなビジネスリスクが生まれ、それがそのままITリスクへ受け渡される。なんとなれば、今日のビジネスのほとんどはIT環境において実行されるからだ。リスク低減のポートフォリオとリスク報酬の方程式を改善するために何かしなければならないとすれば、それはまさに今である」

IT企業への影響はさまざま

 Enterprise Strategy Groupのストレージアナリスト、ブライアン・バビノー氏は今回の金融危機について、IT業界全体に影響を及ぼしているが、それぞれの企業によって状況は異なると指摘する。

 「まず、IT購買の大部分は、資本、短期リース、そのほかのメカニズムによって行われる」とバビノー氏。「そして購買企業の多くでは、資本へのアクセスが明らかに以前より困難になりつつある。その傾向はすでに2週間前から顕著で、エンドユーザーはITを購買するための資金調達ができなくなっている」

 ただ、非裁量支出の項目に注目すると、ストレージ購買はたいていトップに来る。「仕事をすると新しいデータが生まれ、それを維持管理するためのストレージが必要になるからだ」とバビノー氏。

 「いまストレージ産業に降りかかっていることは、第3の選択肢といえるかもしれない。つまり購買の延期だ。例えば、バックアップソフトウェアであれば、ライセンスを延長したり、サイトライセンスなどの別の契約に切り替えるようなものだ。そういった意味で、業界はもっとクリエイティブになる必要があるだろう。しかし、ハードウェア産業全体を見れば、明らかに現行投資からの利益を短期的に最大化しようと動いている」

       1|2|3 次のページへ

Editorial items that were originally published in the U.S. Edition of “eWEEK” are the copyrighted property of Ziff Davis Enterprise Inc. Copyright (c) 2011. All Rights Reserved.

注目のテーマ