無線LANの実パフォーマンスを測定せよ【後編】計る測る量るスペック調査隊(2/2 ページ)

» 2008年10月10日 16時30分 公開
[東陽テクニカ,ITmedia]
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使用される伝送レートを測れ――伝送レート測定実験

フレーム速度測定実験の実験環境 図1 フレーム速度測定実験の実験環境

 無線LAN NICとアクセスポイントとの距離に対し使用される伝送レートがどのように変化するのか、調査するために次のような実験を行った。

 基本的な実験環境は図1のように、フレーム再送実験やフレーム数測定実験で使用したものと同一だ。ただし、本実験ではアクセスポイントとNICの間にある減衰器(アッテネータ)を操作し、信号の減衰量(パスロス)を変えることでアクセスポイントと無線LANカードの距離変化をシミュレートした。Azimuthでは図2のように、ソフトウェアで減衰器を操作することで電波の減衰量をコントロールし、電波伝搬上の距離を自由に変えることができる。

 なお、この実験でも、使用される無線LANデバイスによって違いが発生する可能性があるため、フレーム数測定実験と同様に3種類の機種に対して実験を行った。また、測定はすべてIEEE802.11gで行った。

図2〜5

使用される伝送レートを測れ――実験結果

 実験結果は図3〜5となり、すべてのケースでパスロスが大きい、すなわちアクセスポイントと無線LANカードの距離が離れた状態になると低い伝送レートが使用されるようになった。これは当初予想したとおり、パスロスが大きくなると高い伝送レートを維持することが難しくなるため、より確実にフレームを送ることのできる低い伝送レートにシフトした結果である。

 同じパスロス、例えば90dBで値を比較した場合、WHR-HP-G54/Pはすべてのフレームが54Mbpsで送信されているのに対し、PA-WR6650S/SCではそれより低いレート、CG-WLBARGS-Pではほとんどが1Mbpsで送信している。これだけを見るとWHR-HP-G54/Pの性能が非常に良いように見えるが、送信出力がそれぞれの製品で同じとは限らないので、一概にそうは言えない。送信出力を高くすれば、その分遠くのノードとの通信も確実に行えるようになるものの、フレームを不要に遠くまで飛ばすことでほかの無線LANと干渉を引き起こしたり、フレームを傍受されたりする可能性もある。

 なお、今回の実験は基本的にデフォルトの設定で行っているが、アクセスポイントの送信出力を変える設定項目があり*、そこで送信出力を調整することも可能である。デフォルトでは通常、一般にそのアクセスポイントが使用できる最大の出力が設定されている。

 また、WHR-HP-G54/Pではパスロスが105dBでもまだ余裕がありそうだが、110dBにするとリンクしなくなった。一方、PA-WR6650S/SCではパスロスがどの値でも、再送されたフレームは非常に少ない。この2つを比較した場合、WHR-HP-G54/Pではたとえ再送が起こったとしても、フレームの伝送速度をなるべく落とさずに送信を試みるのに対し、PA-WR6650S/SCでは再送を避けてなるべく確実な伝送レートを使用しているようである。製品のつくりの違いの一端が見えた形である。環境に依存すると思われるが、理想的ではない現実の「環境」でどちらに軍配が上がるのか、興味のあるところである。

 そのほかに目立った点としては、CG-WLBARGS-PやPA-WR6650S/SCに搭載されている、XR(eXtended Range)という非標準の無線LAN延長化機能がある。PA-WR6650S/SCでこの設定をONにして実験を行ったところ、115dBのパスロスでも通信できた。フレームの伝送速度が非標準のものになるため、AirMagnetでは確認できなかったが、製品の仕様によると250kbps〜3Mbpsという、非常に遅いレートを使用して通信を行うようだ。パフォーマンスは期待できないが、低いスループットでも広いエリアをカバーしたいという特殊な用途には向いているかもしれない。

まとめ

 今回は3つの実験を通して、イーサネットにはない無線LAN特有のオーバーヘッドや、パフォーマンスが低下する原因を確認してきた。ケーブルを使用しないということが、いかに多くのオーバーヘッドを必要とするか、お分かりいただけたかと思う。

 次回からは、無線LANのパフォーマンスに大きな影響を与える干渉を取り上げる。無線LANでは同じチャンネル上で複数のノードが同時にフレームを送信しようとしたり、別の機器が同じ周波数帯に電波を送出すると干渉が起こりパフォーマンスに影響が出る。そこで、干渉の起こる幾つかのケースを用意し、実際にはどの程度のパフォーマンス低下が発生するのか、測定を行ってみよう。

今回の調査の結論

無線LANはイーサネットと比べてはるかにオーバヘッドが大きいため、どうやっても帯域に近いスループットは出ない

距離が離れるなど、条件が悪くなるとさらに無線LANのスループットは低下する


このページで出てきた専門用語

アクセスポイントの送信出力を変える設定項目があり

設定による送信出力の調整ができない製品もあると思われる。また、設定できる内容はベンダー、製品により大きく異なる。


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