丸山不二夫が語る「クラウド時代にわたしたちがすべきこと」(1/2 ページ)

クラウドコンピューティングがようやく普及期に入ろうとしている。これまでエンタープライズシステムを長く見続けてきた丸山不二夫氏が、自身が開講する「丸レクセミナー」のメインテーマにクラウドを据えた。ビジネスマンがこぞって注目する丸山氏にクラウドについて聞いた。

» 2008年11月04日 08時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 Googleの登場がインターネットを大きく変えたことはいまさら語るまでもないだろう。彼らはさまざまな先進的なサービスを提供することで多くのユーザーの支持を集め現在に至るが、サービスを提供するために、数十万台単位のサーバが稼働するデータセンターを自ら構築してきた。そして今度はそのインフラをサービスとして提供することで、ユーザーがさまざまなプログラムをそのインフラ上で稼働させることを可能にした。これがクラウドコンピューティングのはじまりである。

 Sun MicrosystemsのCTOであるグレッグ・パパドポラス氏はこうしたクラウド時代の到来を簡潔な言葉で表現している。いわく、「世界に“コンピュータ”は5つあれば足りる」と。ここでいう“コンピュータ”がクラウドコンピューティングを指しているのはいうまでもない。Googleをはじめ、Yahoo!やAmazon、Microsoftといった業界大手のプレーヤーたちがこぞってクラウドという雲海に乗り出している。

 「自分たちが取り組んでいる目の前の技術を知ることも大事だが、技術の展望を理解し、それぞれの立場で対応を準備することも考えておいた方がいい」と語るのは、日本Javaユーザーグループの会長を長く務め、最近では日本Androidの会の会長にも就任した早稲田大学大学院情報生産システム研究科客員教授の丸山不二夫氏。

 そんな同氏がライフワークのように毎年開催しているセミナーがある。丸山不二夫レクチャーシリーズ、通称「丸レククセミナー」と呼ばれるこのセミナーは、SOAやJ2SEをはじめ、時代ごとの先端技術をテーマに掲げ、企業の内外を問わず開発者から多くの支持を集めており、抽選となることも多い人気セミナーである。

 そんな丸レクセミナーが本年度も開講されることになった。7年目へと突入した丸レクセミナーがメインのテーマに据えたのが上述したクラウドコンピューティングである。本年度の丸レクセミナーに参加すると開発者はどういった気づきを得ることができるのか。同氏に話を聞いた。

クラウドがエンタープライズシステムの概念を大きく変化させる

丸山不二夫氏 Androidに話がおよぶと「日本のキャリアは国内だけでなく海外市場をターゲットに携帯端末を開発するように切り替えていかなければ今後難しい局面にさしかかるのではないか」と話す丸山氏(写真はMIJSカンファレンスのときのもの)

―― 丸レクセミナーの第1回が11月13日に開講されますね。今年はクラウドをメインのテーマに据え、そのほかにSOA、モバイルデバイスを掲げています。

丸山 ネットワークを通じて提供されるサービスを利用してシステムを構成するケースにおいて、「サービス提供のインフラストラクチャ」にクラウドという名前を使うことが広く受け入れ始めたように感じます。ネットワーク上のサービスを利用するという点では、クラウドは、わたしがこの数年関心を持ってきた、SOAやGridと共通のアプローチにたつものです。

 クラウドを歴史的に見れば、Googleの検索をはじめとする大規模な無料サービスの提供とそれを利用するAPIの公開が1つの画期となっています。そうした意味では、クラウドはコンシューマーにとって身近な存在といってもよいでしょう。今後、この流れがエンタープライズの分野にも浸透してくることになります。

 基本的にはクラウドもサーバ/クライアントモデルと見ることができますが、インフラのスケールは従来のエンタープライズシステムとはわけが違います。ユーザー企業ごとに自前でデータセンターを抱える時代から、少数の、高度に専門的なインフラの提供者からサービスだけを受け取る方が経済的にはより合理的です。この流れがこれから加速するでしょう。

―― クラウドといえば、Google、Microsoft、Amazonといったグローバルなプレーヤーたちがしのぎを削っています。

丸山 クラウドのプレーヤーとしてGoogleが圧倒的な力を持っているのは間違いありませんが、ことエンタープライズのクラウドについていえばどのプレーヤーもまだまだこれからです。

 Amazonはクラウドがビジネスになるということを確信しており、そういう意味では有力な担い手です。すでにEC2(Elastic Compute Cloud)やS3(Simple Storage Service)などを提供しています。

 Microsoftは10月末に、開発者カンファレンス「Professional Developers ConferenceNews (PDC) 2008」でクラウドの大号令を掛けました。PDCは開発者向けなので、これが一般に落ちてくるまでは少し時間が必要でしょうが、Microsoftもエンタープライズシステムにフォーカスしたクラウドを提供しようとしているのが明確になってきました。クラウドでは大量のサーバを用いるので、ライセンスコストなどを考えればOSにはLinuxを使うか、自前のOSを開発することが前提です。しかし、Microsoftは自社製品なのでWindowsをクラウドに比較的容易に融合させていけるという強みがあります。

 いずれにせよ、自前のインフラを持ち、インフラ込みでサービスを提供することの重要性にクラウドのプレイヤーが気づきつつあります。もちろん、クラウドが企業に普及していく過渡期では、クラウドに移行しやすい形で企業内システムをクラウド化していくような動きが数年続くでしょう。

―― ハードウェアの製品ラインアップを抱えるベンダーはハードウェアが売れなくなって大変ですね。

丸山 それはクラウド時代の到来だけが原因ではないでしょう。ムーアの法則が発展を阻害しているのかもしれません。現在ならエンドユーザーでもメモリを4Gバイト以上積んでいる方も多いでしょう。一昔前であれば1億円ほど掛かっていたものが今は1000分の1程度の値段です。エンドユーザーにはうれしい話ですが、ハードウェアベンダーからすれば収益が1000分の1になってしまったのです。1000倍売れれば収益は維持できますが、それは現実的ではありませんし、事実そうなっていません。つまり、いままでのビジネスモデルでは立ちゆかなくなってきているのです。

 これはどのハードウェアベンダーも気づいていて、自社のビジネスを安定させるため、(ハードウェアほどは)劇的に価格が変化しにくいサービスに視線を向けているのです。このことがクラウドの推進力となっています。

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