ドリルを売るなら穴を売る?――マーケティングの真髄はITサービスに通じる差のつくITIL V3理解(3/3 ページ)

» 2008年11月21日 08時00分 公開
[谷誠之,ITmedia]
前のページへ 1|2|3       

IT側と事業側には、境界線は存在しない

 次に「有用性を高める」ことと「保証を高める」ことを、もう少し具体的に説明する。

 まずは有用性について。有用性を高めるというのは、具体的には次の2つの活動である。

  1. 利益を増加させる
  2. 損失を減少させる

 利益を増加させるとは、顧客に対して目的に沿ったプラスの影響を与える、ということである。携帯電話サービスの場合、日本全国どこでも通話ができるとか(関西在住の筆者が初めて携帯電話を持った頃は、関西以外の地域に移動するとその携帯電話では通話できなかった)、誰とでもメール交換ができるとか(筆者が初めて携帯電話を持った頃は、キャリアが異なればメール交換できなかった)、圏外の場合は自動的に留守番電話サービスに切り替わるとかの、顧客に対するプラスの影響を与えるサービスをより高めるということである。。余談だが筆者は大変な方向音痴だが、いまだに筆者の持つ携帯電話にはGPS機能が搭載されていない。

 損失を減少させるとは、顧客に対するマイナスの影響を排除する、ということである。マイナスの影響とは、顧客がこうむるかもしれないコストやリスクのことである。これらを効果的に排除することが求められる。例えば携帯電話を持つことによって生じるマイナスの影響とは、紛失や盗難によってアドレス帳を失ってしまうとか、故障の際、修理している間は携帯電話を使えないとか、メール交換やWebブラウジングを多くしていると料金がかさむ、といったことであろうか。これらのマイナスの影響を排除すべく、携帯電話キャリア各社は、さまざまなサービスを行っている。アドレス帳をキャリア自身にバックアップできるとか、修理している間は代替機を貸す(一時的に電話番号をほかの端末に移す)とか、定額料金サービスを提供するなどである。

 携帯電話キャリア各社がこれらのサービスを顧客に提供する場合、どのようなITサービスを用いているか、そのITインフラが具体的にどのようになっているか、といったことは顧客に見せない。しかしITサービスは確実に必要であり、携帯電話サービスの根幹を担っている。ITサービスを計画・導入する場合は、そのITサービスが顧客にどのようにプラスの影響を与え、マイナスの影響を排除するように働くのかということを念頭におかなければならない。


 他方、保証を高めるというのは、次の4つから規定される。

  1. 可用性
  2. キャパシティ
  3. 継続性
  4. セキュリティ

 まず可用性は、顧客に価値を確約する上で最も基本的な側面である。顧客に対し、合意された条件化でサービスが利用可能になることを確約する。携帯電話の例では、基地局の故障で携帯電話がつながらないといった事態を最小限にすることや、設備の増設、メンテナンスによるサービス中断を最小限にすることなどが挙げられる。

 キャパシティは、指定されたレベルのサービスを、指定された品質で提供することを確約する。筆者の自宅の周りでは携帯電話がつながりにくい地区はほとんどない。しかし毎年夏の花火のシーズンになると話は別である。例年、筆者の自宅の近所では中規模の花火大会が行われる。花火を見ようをたくさんの人が筆者の自宅の周りにやってくる。すると基地局のキャパシティがオーバーするのか、携帯電話がほとんどつながらなくなるのだ。筆者の自宅のある地区は、繁華街でも町の中心地でもない住宅地なので、普段は大きな基地局は必要ないのだろう。しかし花火大会の日だけは別である。もっとも、花火大会の日だけのために基地局を増設するのも、コストとの折り合いという点では望ましくない。

 継続性は、大規模な障害や破壊的な出来事(大規模な停電、台風、地震、津波、テロ、組織的なサボタージュ、など)があってもサービスが事業を支援し続けることを確約する。具体的には機器の冗長化が最も一般的であろう。または災害が起こりにくい地区に施設を移動させるような対策も考えられる。

 セキュリティは、顧客によるサービスの利用が安全であることを確約する。第三者の不正アクセス(携帯電話なら盗聴や電話番号の不正利用など)から守るだけでなく、事業が顧客が許可したサービスのみを提供していることを保証する(顧客情報を転用して顧客に勝手にダイレクトメールが送られたりしないようにする)ことも重要である。


まとめ

 有用性と保証は、バランスが必要である。どちらかに偏ってもいけないし、どちらかが極端に低い、というのでもいけない。有用性を高めるためにも保証を高めるためにもある程度のコストをかけることが必要だが、果たしてどの程度のコストをかけ、どの程度の有用性や保証を確約すれば十分であるか、ということに関しては、やはり事業が顧客に何を提供するのか、顧客はサービスに何を求めているのか、ということを明確にしておく必要がある。「それは事業側が考えることであり、IT側の人間の仕事ではない」といえる時代ではない。ITと事業の間には、もはや境界線は存在しないのだ。

※本連載の用字用語については、ITILにおいて一般的な表記を採用しています。

関連キーワード

ITIL | マーケティング


谷 誠之(たに ともゆき)

IT技術教育、対人能力育成教育のスペシャリストとして約20年に渡り活動中。テクニカルエンジニア(システム管理)、MCSE、ITIL Manager、COBIT Foundation、話しことば協会認定講師、交流分析士1級などの資格や認定を持つ。なおITIL Manager有資格者は国内に約200名のみ。「ITと人材はビジネスの両輪である」が持論。ブログ→谷誠之の「カラスは白いかもしれない」


前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ