企業は、ITシステムが欲しくてITシステムを導入するわけではない。また、ITシステムを管理したくて管理しているわけでもない。これに気付くと、自ずからITサービスが目指す姿が見えてくる。
本連載の中で、サービスとは「顧客が特定のコストやリスクを負わずに達成することを望む成果を促進することによって、顧客に価値を提供する手段である」と解いた。早い話が、顧客に価値を提供することがサービスである。顧客は価値のないサービスを受けたいとは思わない。ITサービスでも同じである。どれだけ高機能なサーバを用いていても、どれだけ高速なネットワークを構築しても、そこに価値を見出さなければ顧客はそれを使いたいとは思わないだろうし、ありがたいとも思わない。
出典はさだかでないのだが(世界的に有名なマーケター、ジェイ・エイブラハム氏の言葉であるとされているが、どうやらもっと以前から存在するらしい)次のような言葉がある。
顧客は、ドリルが欲しくてドリルを買うわけではない。穴が欲しいからドリルを買うのである。
顧客が欲しいと思っているのは穴である。しかし残念ながら、穴は売っていない。そこでドリルを買う。ドリルがどれだけ使いやすいかとか、どの程度の値段なのか、ということは、その次の話である。次に、どこにどの程度の穴が欲しいのか、すなわち、穴をあけたいのは木なのか、コンクリートなのか、金属なのか、そしてその穴の大きさや数はどの程度なのか、ということによって購入すべきドリルは変わる。ドリルメーカーは、その顧客が望んでいる穴を空けられるドリルを作れば、売れるわけだ。
ITシステムでも同じことがいえる。顧客は、ITシステムが欲しくてITシステムを導入するわけではない。また、ITシステムを管理したくて管理しているわけではない。ITシステムにさせたいことがあるから、ITシステムを導入するのである。そしてそのITシステムが、継続的に一定の価値を提供することを期待して、管理をするのである。
すなわち、そのITシステムを利用する顧客がどのような価値を望んでいるのか、ということを正しく把握/理解しないと、ITシステムは正しい価値を提供できない。これはまさに、マーケティングの思想と同じである。ITシステム部門はマーケティングと無縁だ、と考えるのは誤りである。どのような価値が提供できるか、ということではなく、どのような価値が望まれているか、ということに目を向ける必要がある。マーケティング思考の出発点は、単純ないくつかの質問から始まる。
これらの問いかけに対する明確な答えを見出せれば、ITサービスがどのような価値を、誰に提供する必要があるのかということが分かるだろう。
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