米国に依存する時代は終わったSFC ORF2008 Report

サブプライムローン問題、大手証券会社の相次ぐ破たんによる金融危機、イラク戦争の泥沼化……。巨大な覇権国家を築いた米国が苦境に立たされている。かたやBRICsに代表される新興国の台頭により、世界のパワーバランスは大きく変動している。今まさに日本は“賢い選択”を迫られている。

» 2008年11月21日 19時14分 公開
[伏見学,ITmedia]

 慶應義塾大学SFC研究所主催の研究発表イベント「慶應義塾大学SFC Open Research Forum 2008(ORF2008)」が11月21日、22日の日程で開催している。ORF2008では学内の各研究会がブースを出展して日ごろの研究成果を発表するほか、ICT(情報通信技術)、政治、経済などのテーマについて有識者が議論するセッションが用意されている。

 初日のオープニングセッションでは「世界の新しいパワーバランスと日本の安全保障」と題したパネル討議が行われた。自民党の林芳正前防衛大臣、民主党の前原誠司副代表、神谷万丈防衛大学校教授、谷内正太郎外務省顧問の4氏が世界における日本のあるべき姿について意見を述べた。前原氏は「日本は国際社会の一員という自覚を持ち、(米国への)依存から自立へシフトチェンジすべきだ」と強調した。

一極構造から多極構造へ

「米国の外交力、政治力は限界に達した」と語る谷内正太郎氏 「米国の外交力、政治力は限界に達した」と語る谷内正太郎氏

 今まさに世界のパワーバランスは大きく変わろうとしている。従来の米国による一極構造から中国やインドなど新興国の台頭に伴い多極構造に向かっているのは言うまでもない。谷内氏は「証券会社破たんによる金融危機、イラクやアフガニスタンに対する外交問題などが象徴するように、米国の威信は低下している。今後はBRICsを含めた相互依存体制に世界は移り変わる」と説明する。その中で日本は、米国とのパートナー関係を断ち切るのではなく、これまでのような一極集中の外交から、日米欧や日米中といったマルチ外交に切り替えていくことが望ましいという。

 日米安保については、「日本と米国の関係を対等にするための“攻めの外交”を展開しなければならない」と谷内氏は力を込める。

 神谷氏も同調する。日本の国益がグローバルに広がっているのは明らかであり、安保や外交についてもグローバルの視野を持つのは当然だという。「もはや日米だけで政治や経済などすべてを完結させるのは無理だ。目標や価値観を共有できる国と協調することが重要であり、日米同盟への偏重は避けるべきである」と神谷氏は述べる。

 「日米関係さえよければ外交はすべて安泰だということはない」――前原氏も外交政策に対する基本的なスタンスは同じだ。ただし前原氏は「より大きな観点から日本の外交を見直すべきだ」としながらも、「現実を考えた場合、当面は米国との関係を維持しつつ、外交の幅を広げることを考えていかなければならない」と話す。

「米国はもとより諸外国との外交を強化することで、米国への依存体制から自立すべきだ」(前原氏)

尊敬される環境立国へ

日本の自立を訴える前原誠司氏 日本の自立を訴える前原誠司氏

 一方、日米関係を継続していく上でもいくつかの課題がある。特に環境問題と基軸通貨については、今後日米での協調は難しいと前原氏は指摘する。金融危機などの影響で米国の財政赤字の増加は避けられず、基軸通貨としてのドルの是非が問われている。EUを中心にユーロを基軸通貨に押す声がある中、前原氏は「中長期的にはアジアの共通通貨を検討すべき」と考えを示す。

 環境問題に関しては、日米で温度差があるため、たとえ日本が二酸化炭素削減に向けたルールを策定したとしても、「米国は中国などと手を結び反対を唱えるだろう」(前原氏)という。林氏は「日本は環境立国のモデルケースとして世界中から尊敬されるように努めなければならない」と強調した。

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