Microsoftのオープンソース戦略――基本姿勢は変わらず

Microsoftはオープンソースコミュニティーとの窓口を担当する責任者としてロバート・ダフナー氏を指名した。ダフナー氏はMicrosoftのプラットフォーム/オープンソースソフトウェア戦略のシニアディレクターという重責を担う。IBMおよびBEA出身の同氏は、独自色を発揮するとみられるが、Microsoftの基本姿勢は変わらないようだ。

» 2008年12月16日 16時43分 公開
[Darryl K. Taft,eWEEK]
eWEEK

 Microsoftはオープンソースコミュニティーとの関係強化を促進すべく、オープンソース戦略を統括する新たな責任者としてロバート・ダフナー氏を起用した。

 ダフナー氏に与えられた肩書きは、Microsoftのプラットフォーム/オープンソースソフトウェア戦略を統括するシニアディレクターだ。これまでサム・ラムジ氏がその役職に就いていた。ラムジ氏は、オープンソースに関するMicrosoftの全般的なアプローチに関する総合的な役割を果たす立場に昇格した。

 ダフナー氏は今後、ITプロフェッショナル、開発者、政府、大学・学術機関などを含む広範な分野の人々や組織に対して営業/コミュニティー活動を推進するチームを率いる。同氏はさらに、オープンソースコミュニティーに対するMicrosoftの主要な窓口であるPort25の責任者も務める。

 ダフナー氏の略歴によると、Microsoftに入る前は、IBMでオープンソースソフトウェア事業開発戦略の策定・推進および新興市場への投資を統括する責任者を務めていた。当時、ダフナー氏のチームは、IBMソフトウェア部門からIBM初のオープンソース対応製品(WebSphere Application Server Community EditionとApache Geronimo)をリリースするなど独自性を発揮した。

 Microsoftによると、ダフナー氏はBEA Systems、Vignette、PeopleSoftなどの企業でも要職を歴任し、エンタープライズソフトウェア業界で16年間の経験がある。

 ダフナー氏の起用で、オープンソースに対するMicrosoftの基本姿勢が大きく変わることはなさそうだ。Microsoftのオープンソース戦略業務がジェイソン・マテュソー氏からビル・ヒルフ氏に引き継がれたときも、ヒフル氏からラムジ氏に引き継がれたときも、大きな変化はなかった。

 わたしは、ダフナー氏およびeWEEKの元同僚のピーター・ガリ氏とニューヨークで昼食を共にする機会があった。

 Microsoftの基本姿勢はあまり変わっていないが、同社はさまざまなオープンソースコミュニティーとの協力関係を深めているようだ。ダフナー氏によると、オープンソースコミュニティーに関連した今年のMicrosoftの最大の動きの1つが、Apache Software Foundationへの投資だという。金銭的な投資だけでなく、Microsoftが初めてApacheプロジェクトにコードを寄贈したことは、「われわれが2008年に達成した最大の成果だろう」とダフナー氏は語った。

 ダフナー氏によると、MicrosoftはPowersetの買収を通じて、HBaseプロジェクトにも貢献したという。Microsoftでオープンソース戦略担当ディレクターを務めるブライアン・カーシュナー氏は、Powersetについてブログ記事で次のように述べている。

 「Powersetの開発における重要なコンポーネントのHBaseは、Apache Software FoundationのHadoopプロジェクトの一環として開発され、Hadoop Distributed File System上で動作することにより、BigTable的な機能を提供する(HBaseは当初、Hadoopへのコントリビューションとしてスタートしたが、2008年1月にHadoopの正式なサブプロジェクトになった)。」

 さらにカーシュナー氏は、「ソフトウェアの次の10年間は、成長と変革の時期でもあり、オープンソースとMicrosoftの両コミュニティーがともに成長するだろう。HBaseへのコントリビューションとADOdbへのコントリビューション、そしてOpenPegasusが結び付けば、すごいことになりそうだ」と話す。「ADOdbはPHP用のポピュラーなデータアクセスレイヤで、多くのアプリケーションで用いられている(これはPHPプロジェクトへのMicrosoftの最初の寄贈コードであり、これが最後ではない)。OpenPegasusは、System Centerの新たなクロスプラットフォームアプローチの重要な一部である」

 またダフナー氏は、Microsoftは今でも「アプリケーション対アプリケーションというベース」でオープンソースアプリケーションと競争しており、「プラットフォーム対プラットフォームというベース」ではRed Hatなどの商用Linuxベンダーと競争しているという点をしきりに強調した。同氏によると、オープンソースとMicrosoftとの関係が語られる際に、両者の区別がぼやけがちだという。またオープンソースに関する市場の現在の認識は、コスト削減かMicrosoftの製品かという比較になってしまうが、こういった見方も正しくないと同氏は指摘する。

 「わたしに言わせれば、責任ある問題提起とは、“プラットフォームへの初期投資はどのくらい掛かるのか”ではなく、“どちらのOSが、企業にとって毎年の運用コストの節約につながるのか”ということだ。すなわち、容易に利用可能で、容易にトレーニングできるリソースを提供し、IT環境の拡張に伴うダウンタイムを最小限に抑える信頼性と管理性を備えたプラットフォームを提供するのはどちらか、ということだ」とダフナー氏は話す。

 さらにダフナー氏は、「今日、Windows上で動作するオープンソースアプリケーションは8万本以上もあり、そのうち3万本はWindows専用として開発されたものだ」と指摘する。

 どうやら、Microsoftのメッセージはあまり変化していないようだ。Microsoftは数年前に、オープンソースコミュニティーとの平和共存戦略をスタートした。Microsoftの最高幹部がオープンソースソフトウェアベンダー/コミュニティーのリーダーたちと会合を行うという噂が広がり始めた2005年、わたしはたまたま、メリーランド州イースタンショアで開催された小さなイベントに出席した。そのイベントでMicrosoftの上級副社長兼総合顧問のブラッド・スミス氏が登場し、オープンソースコミュニティーに和平を申し出たのだ。それ以来、Microsoftの基本的なスタンスは変化していない――「われわれは君たちに協力するが、競争もする」というものだ。

 結局、コミュニティーに対する窓口の担当者が変わっただけで、Microsoftの姿勢は基本的に変わっていないのである。とはいえ、同社が多数の熱烈なオープンソース支持者を迎え入れるまでに成長し、オープンソースをサポートするための洗練された手段(各種のライセンスの下でプロジェクトにコードを寄贈するなど)にまで踏み込んだことは、大いに評価に値する。

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