新しい「人脈力」をつけるための10カ条(前編)Next Wave(2/2 ページ)

» 2008年12月17日 07時00分 公開
[富永康信(ロビンソン),ITmedia]
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近くの同僚よりも疎遠なあの人

 橋本氏が次に示したのが、「弱い紐帯の強み」(The strength of weak ties)という説。スタンフォード大学の社会学者マーク・グラノヴェッター氏が提唱したもので、われわれは普段から高頻度で接し合いながら強い関係を結ぶことが人脈力だと考えがちだが、重要な社会資本を生み出しているのは、実は社外や遠方いてたまにしか会わない人たちとの弱い関係だという考え。

 毎日顔をつきあわせている会社の同僚よりも、年に数回しか会わない知人の方が、重要な関係性やセレンディピティ(偶発的に価値を発見する能力)が生まれやすいという。ある大手のグローバル企業の調査では、個人的な知人の中に遠方の友人を数多く含んでいる管理職ほど昇進が早いという興味深い結果が出ている。

 だが、そこには人脈の維持コストという課題もある。社会学の研究では、弱い紐帯は放っておくと1年間に9割が消失してしまうそうだ。そのため、従来はたまにしか会わない人と連絡を取り続けたり、消失した人脈を補充したりする努力が大変だったのだが、最近はITによるソーシャルネットワークを積極的に活用することで、コストや時間をかけずに維持・強化が可能になった。

 橋本氏自身もMSNメッセンジャーを利用して仕事の関係者150名を登録しており、メール数や会議数が激減し、プロジェクトの進捗や締め切り管理が容易になったという。「100人以上と関係を持つと、夜中でも誰かしらアクセスできる。在席状況を明かしてもいいという友人たちなので、質問にも真摯に答えてもらえる。なによりもバーチャルに"隣席"の人を増やせるのが良い」(橋本氏)

自分だけが知っている関係が人脈には重要

 3つ目は、今まで縁のなかったコミュニティー同士をつなぐ"重複のないコンタクト"が人間関係で重要なのだという理論。それを「構造的空隙の理論」という。これは、シカゴ大学ビジネススクールの教授でネットワーク分析を応用した社会学と戦略論の研究家であるロナルド・S・バート氏が、自著『競争の社会的構造』で、構造的空隙(=ネットワーク関係における穴)という概念を立証し、社会的競合状態を解明しようとした。

 橋本氏は、「人脈は量より質が重要であり、誰もが知っている偉い人とのつながりよりも、自分だけが知っている人との関係(ブリッジ)を持つことが、異なる組織同士を結びつける仲介力につながる」と解説する。他人と重複することがないユニークな人間関係(これを、構造同値の低い関係という)を持つ人の方が人脈の中心に位置できるというわけだ。

 企業においても、異なる組織を結ぶブリッジ社員が何人存在するかが重要になる。それを顕在化する方法として、外部講師を招いて行う社内勉強会が効果的だという。社員が持ち回りで個人的な知り合いを講師として招聘することで、多様な専門家の存在を知ることができ、かつ特定分野に強い社内キーマンの発見や人脈の強化にもつながる。大学時代の恩師や友人など、個人的な人脈を利用すれが、著名な講師をわずかな謝礼で招くことが可能になるし、堅苦しくない雰囲気で話が聞けるのもメリットだ。

mixi mixiGraph(mixiの関係図を表示するソフト)を使って橋本氏の構造的間隙を視覚化したもの。橋本氏(左下の中心)とネットアイドルのとよみ氏(右上の中心)をつなぐブリッジが存在する (出典:Web業界トレンド2008「ソーシャルネットワークと集合知 サービス、経営、イノベーション」 データセクション 橋本大也氏)

日本と米国で異なる信頼の作り方

 そして4つ目に橋本氏が挙げたのは、「信頼の解き放ちの理論」。赤の他人を信頼できるかどうか(一般的信頼)の度合いが高い社会では、離れたコミュニティーにいる者同士が、近道を作って情報交換をすることが容易になるという考え。1998年に北海道大学文学研究科の教授で著名な社会心理学者である山岸俊男氏が提唱した。日本人は地縁血縁を重視し内輪びいきするのに対し、米国人では初対面でもディスカッションをした上で信じられるかどうかを見極めるため、日本よりも米国の方が人間同士の距離が縮めやすいともいえる。

 信頼関係をベースに知識を蓄積していく仕組みの例には、地域SNS型のレビューサイトなどに見られる。住人自身が、評判の良い歯科医やおすすめの本屋さんのレビューを書くため、タウン誌などの情報とは異なり、顔が見えるという意味でウソをつきにくくする効果があり、信頼がソーシャルキャピタルの価値を増大させるという。

 以上、橋本氏が提案した10の理論のうち4つを列挙したが、後編では残りを紹介するとともに、ソーシャルネットワークを利用している企業事例も取り上げたい。

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