各企業ともクライアントPC管理の厳格化を進めているが、従来型PCに対しその機能を制限したり、使用状況を管理したりするのは手間もかかるし、ユーザーに負担を強いることにもなる。解決の糸口として期待されているのがシンクライアントである――。
IT統制(セキュリティ)の徹底や、クライアント環境の管理負荷といった課題を解決する糸口として「シンクライアント」というソリューションが登場して久しい。その実装も、主にハードウェアベンダーが推進する「ブレードPC」はじめ、CitrixのXenAppやVMwareを利用するソフトウェア方式、またWindows環境にこだわらなければSun Rayという選択肢もある。2008年10月に公表されたIDCの調査資料によれば、2007年から2012年にかけて、シンクライアントはその台数を年間平均(CAGR)36%というペースで増加させる見込みだという。この動きには、どのような市場背景があるのだろうか。
ここで、シンクライアントの基本的な考え方をさらっておこう。通常使われるクライアントPC(シンクライアントに対し、ファットクライアントと呼ばれることもある)には、大きく分けて「記憶/演算/ネットワーク)/入力・表示」といった4つの機能が備わっている。だからこそ、クライアント単体で完全に機能するわけだが、CPUは常にフル回転するわけではないし、ハードディスクだって空き容量を確保した状態が普通である。これではいかにも効率が悪いし、管理だって大変だ。そもそも、情報漏えいといった問題も、クライアントが「ファット」だからこそ発生していると考えられる。人間同様、メタボからスリム化への移行を果たす解して期待されているのが、シンクライアントとなる。
シンクライアントソリューションにおいては、上述した4つの機能は分割して構成される。サーバルームに設置されたブレードPC(あるいはサーバ)が「演算」を担当し、「ネットワーク」を解してクライアントに演算結果を「表示」させる(この端末が、ユーザーに認識されるシンクライアントとなる)。表示する要素を圧縮/転送するプロトコルとしてはマイクロソフトのRDP、CitrixのICA、ヒューレット・パッカードのRGSなどが知られている。ユーザーのデータは、ブレードPCに接続されたネットワークストレージに保存されるため、ハードディスクの空き容量を心配したり、情報漏えいを防ぐためにクライアント監視ソフトを導入したりする必要はない。
「仮想マシンと仮想化技術は定義が違う。仮想マシンは、メインフレームのIBM System/370時代から続くソフトエミュレーション方式であり、仮想化実装の1つの手法に過ぎない」と話すのは、日本hp 執行役員 クライアントソリューション統括本部長 松本光吉氏だ。hpの国内シンクライアントシェアは、IDCの2008年上半期調査によると22.9%となり首位。これは各社とも社内導入を含むデータであり(大手ハードウェアベンダーでは、自社のシンクライアントソリューションを大規模に社内導入しているケースが多い)、外販に絞るとそのシェアは約40%に上るという。
松本氏は(仮想マシンではない)仮想化技術を、「物理リソースを論理単位に細分化、あるいは集約化し、そのリソースを動的に再配置。結果、柔軟性・信頼性を向上させるもの」と定義する。つまり、CPUやメモリ、ディスクドライブといったハードウェアをパーティショニングし、ネットワーク上のリソースを動的に扱う技術だということになる。
ユーザーの立場から見た場合、ホストOS上に複数のゲストOSを立てる仮想マシン方式に対して、ブレードPC方式(松本氏による定義上の仮想化技術)の優れる点はどこにあるのだろう? 松本氏は「仮想マシン方式の場合、コストの大半をソフトウェア費用が占めてしまう。VMwareなど仮想化ソフトのライセンスに加え、WindowsのVECDライセンス、リモートアクセスライセンス、それにEA、SAといったライセンス価格が加わり、結果としてTCOを圧迫しかねない」と話す。対してブレードPC方式の場合、仮想化ソフトウェアに対する出費は存在しないし、OSのライセンスも基本的にはWindows OEMライセンスでまかなえる。端末あたりのコスト構造を積み上げ式でまとめると、左図のようになる。
ユーザーにとってのメリットは、価格面以外にも存在すると考えられる。仮想PC方式の場合は、ゲストOS上でのアプリケーション互換テストが必要となるが、ブレードPCはそれ自体がピュアなx86マシンであるため、検証は必要ない)。またファットクライアント環境との比較で考えると、hpによる比較では従来比47%の電力削減を図れる。これは、クライアント台数が多くなる大規模事業者ほど、効果を実感できる数値となる。
またブレードPC方式においては、必ずしもユーザー数分のブレードPCを用意しなければならない、というわけではない。仮に100人の社員に端末を配布したとしても、同時に利用される台数が70台ほどなのであれば、ブレードPCは80枚程度導入すれば事足りるだろう。ブレードPC自体の起動状況も一括管理でき、夜間や休日、あるいはお昼休みなどに(可能な台数の範囲で)電源を落とすといった対処もできる。一括管理という意味では、ハードウェア、あるいはソフトウェアの障害可能性が減るため、ユーザーに対するヘルプデスク負荷の軽減が期待できるだろう。アプリケーションの使用法などをレクチャーする際にも、シンクライアントであることの利点を生かし、リモートから操作し、トレーニングする方法が採れる。
「数年前までユーザーの間には、(ブレードPC方式の)シンクライアントは価格が高い、というイメージがあった。だが現在は、1台あたり以前の半分以下の価格で導入できる。ファットクライアントと比べ、例えば秘文といった管理ソフトを導入する必要もなく、ユーザーに対しさらなるTCO削減をもたらせるだろう」と松本氏はシンクライアント市場に対し期待を込める。
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