デルの第11世代サーバを話題に取り上げたが、米国では発表されながら、東京の記者発表会では触れられなかったものがある。米Egeneraの仮想化ソフトウェア「PAN Manager」のバンドルだ。
米国では製品のリリースやサービスが始まっているものの、国内の市場では未発表、ということがこの業界にもある。1990年代にPCWEEK日本版に携わっていたころは、米国版のニュースから発売時期や価格などを翻訳掲載すると、しばしば国内の代理店などから「営業妨害だ」とお叱りを受けたものだが、いつになっても発表や発売のズレはある。製品そのものを日本語化したり、販売・サポートの体制も整えなければならないからだろう。
昨日のe-Dayでは、デルの第11世代サーバを話題に取り上げたが、米国では発表されながら、東京の記者発表会では触れられなかったものがある。外電を調べていて気が付いたのだが、米Egeneraの仮想化ソフトウェア「PAN Manager」のバンドルが漏れている。発表会で一部アナリストが「クラウドへの対応は?」などと質問したが、ジム・メリット社長はこの件については話をしなかった。
東京にも拠点があるイージェネラは、ゴールドマンサックスでCTOを務めたバーン・ブローネル氏らが2000年に設立したブレードシステムベンダー。彼の「ストレージにおけるSAN(Storage Area Network)と同じ発想をプロセシングに持ち込めないか」という考えから生まれた、ユニークな「PAN」(Processing Area Network)アーキテクチャーで知られている。
コンピュータは大抵、CPUとメモリ、ストレージ、ネットワークといった主要コンポーネントが一体化している。それゆえ、拡張や交換などは、複雑な作業が伴う。何百台、何千台ともなると実に煩雑になる。ばらばらとアプリケーションごとにサーバを構築していると、使用率も低く、無駄が多い。1台のメインフレームを効率的に、かつ、持てる性能をフルに引き出すために生み出された仮想化手法が脚光を浴びているのはこうした背景がある。
SANはストレージをコンピュータから切り離し、プール化することで、必要に応じてストレージを拡張することを容易にしたり、集約することで無駄を省ける。ストレージの仮想化を支える技術として、今流行りのIAサーバの仮想化に先駆けて広範な導入が進んでいる。PANは、同じことをプロセシングでもやろうというのだ。
イージェネラのシステムは、シャシーに収められたブレードサーバを高速のファブリックネットワークとスイッチを介してSANやLANとつなぐ。ここまでなら、どこも似たようなことをやっているのだが、同社がユニークなのは、PAN Managerが、需要に応じてプロセシングのためのリソース(CPUとメモリ)を、仮想化されたストレージとネットワークに対して、動的に割り当ててくれることだ。乱暴に言えば、CPUとメモリ、ストレージ、ネットワークといった主要コンポーネントがすべてプール化され、全体で1つの巨大なコンピュータとして見え、必要に応じて使えるということだ。3月中旬、Cisco Systemsが「Unified Computing System」(コードネーム:California)と呼ばれるデータセンター構想を発表したが、やろうとしていることは似ている。
仮想サーバの構成情報は、PAN Managerが管理しているため、あるブレードで障害が発生しても、シャシー内の別のリソースで再度立ち上げて引き継ぐことも容易だし、遠隔地にデータがミラーリングされていれば、災害時にも遠隔地のデータセンターにあるリソースを活用して復旧させることもできるという。
通常のサーバで障害復旧のためのシステムを構築する場合、全く同じシステムをもう1組用意する必要がある。システムが複数個所にあれば、それぞれ1組ずつ必要で、コスト的にも大きな負担となるが、PANアーキテクチャーで標準化されたリソースがあれば、必要に応じて流用すればいい。イージェネラは、日商エレクトロニクスやパナソニック電工インフォメーションシステムズと共同で、今夏のサービス展開に向けて協業を拡大することを明らかにしたばかりだ。まだまだ限定的だが、ユーティリティーコンピューティングの先駆けともいえる。
米Dellは昨年9月、Egeneraをパートナーとして選び、PANをデータセンター全体の仮想化分野に参入する切り札のひとつとしているはずだ。仮想化やクラウドが流行りだが、実際に取り組んでいる企業の情報システム部門に話を聞くと、ストレージやネットワークの知識やスキルも要求され、かなりのチャレンジだという。彼らは、ただでさえ少ないスタッフで新しいスキルの習得にも格闘しなければならないが、ベンダーとしてもPANに関する情報を積極的に出していくべきだと思うがどうだろうか。それが、企業の競争優位につながるIT基盤をつくるのだから。
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