あれ、さっきから1行も増えて無い。3〜4行で止まったままだぞ?
見ると、おじさまは寝ていた。ひざの上にA4より大きなPCを載せ、左手には謎のコップを持ったまま。
白い液体は、まだ半分は残っている。わたしはそのことを自覚した瞬間、一気に目が覚めた。なぜなら、このおじさまに降りかかるかもしれない恐ろしい出来事を想像してしまったからだ。
恐ろしい出来事とは何かって? それはもう、「左手の力が抜けて、ひざ上のノートPCにあの『白い液体』を飲ませてしまう」という光景だ。もちろんおじさまのひざも白い液体まみれ。もしかしたら、隣の人も……。
自分の想像に、硬直するわたし。しかしいくらなんでも、ここで「ヘルプデスク」するわけにもいかない。でも、おじさまから目が離せない。どうしよう……と思って見ている間にも、左手から力が抜けていくのが分かる。完全に熟睡モードに入ったらしい。
ドキドキ。
最近の新幹線はあまり揺れない。とはいえ、まったく揺れないわけじゃない。おじさまの手は少しずつコップから離れていく。力も少しずつ抜けていく。わたしの頭の中では、あの「ジョーズ」のメインテーマがリフレイン――。
万が一のことがあったら、あのPCを助けるのって、やっぱりわたしだろうか? 以前キーボードを助けてしまったように……。いや、それはいくらなんでも、おせっかいすぎるのでは? と勝手にアセるわたし。周りの乗客は、ほとんど寝ていらっしゃる。どうしよう。
おじさまのノートPCがあの白い液体をかぶったら、きっと“一撃でお亡くなり”になるだろう。ハラハラ、ドキドキ。目が離せない。
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