Microsoft、Windows 7などのコアビジネスに再注力へ不振プログラムを相次ぎ終了

EncartaやSoapbox、Popflyなどを次々と終了し、傘下のRazorfishを売却。一連の動きは、MSが伝統的な得意分野に注力する方針を打ち出したことを示している。

» 2009年08月12日 07時32分 公開
[Nicholas Kolakowski,eWEEK]
eWEEK

 米Microsoftが最近、各種アプリケーションやサービスを終了したことは、不況が同社の収益に悪影響を与えているだけでなく、今後投入される「Windows 7」や「Office 2010」などの主力製品にフォーカスするという企業戦略を同社が推進しようとしていることを示すものだ。

 これらのプログラムとサービスの多くの終了が決まったのは、景気後退が深刻化した2009年前半の数カ月のことだ。「Soapbox」(YouTubeと競合するMicrosoftのサービス)に加え、長い間提供されてきたレガシープログラムも幾つか終了することになった。これらのプログラムの多くがニッチ指向の実験的なものであったことを考えれば、この間の動きは、Microsoftが新分野への進出という目的を果たせなかった取り組みを中止し、同社の伝統的な得意分野に注力する方針を打ち出したことを示している。

 このほかにも、Microsoftと米Yahoo!との間で7月に締結された検索広告提携に伴って終了したプログラムもある。

 Microsoftは8月9日、傘下のデジタルマーケティング企業Razorfishをフランスの広告代理店Publicis Groupeに5億3000万ドルの現金と株式で売却する契約を結んだ。Microsoftは本格的なオンライン広告プラットフォームの構築を目指していた2007年、aQuantiveを60億ドルで買収し、その一部として手に入れたのがRazorfishだった。aQuantiveの買収に伴って同社が獲得した広告・出版ツールの1つに、広告キャンペーンを広告主の在庫に適合させる「DRIVEpm」がある。

 Microsoftのスティーブ・バルマーCEOは、契約発表の声明文で「Razorfishが当社のオンライン広告ビジネスに貢献したことに感謝している。われわれは今後も、当社の広告代理店の1社としてRazorfishとの協力関係を続けたいと考えている」と述べた。

 今回の契約に基づき、Microsoftは5年間にわたってディスプレイ広告と検索広告を“有利な条件”でPublicis Groupeの顧客に提供することになる。Razorfish売却の背景には、MicrosoftがYahoo!と提携したことで、Microsoft内でのRazorfishの居場所がなくなったことがあるのかもしれない。MicrosoftとYahoo!の提携により、両社の検索広告主へのワールドワイドの営業活動をYahoo!が一手に引き受ける。

 MicrosoftとYahoo!が提携に踏み切ったのは、米国での検索エンジン市場のシェアをめぐって両社がGoogleに苦戦を強いられていたからだ。ある調査リポートによると、同市場におけるMicrosoftのBingとYahoo!のシェアはそれぞれ8.4%と19.6%なのに対し、Googleのシェアは約65%となっている。この状況に加えて世界的不況による収益悪化が、Yahoo!との交渉テーブルに着く(そしてRazorfishを切り捨てる)ことをMicrosoftに促したようだ。

 しかしRazorfishは、Microsoftが最近中止した多くのプログラムや構想とは性格が大きく異なる。この数カ月の間に切り捨てられたプログラムの多くは、Microsoftのレガシーアプリケーションだ。Microsoftが6月11日に販売終了を発表した「Money Plus」は17年間の歴史がある。16年間にわたって提供されてきたオンライン百科事典の「Encarta」も終了することが決まった。Microsoftでは両プログラムの終了を決めた理由として、IT産業とWebが進化したことを挙げている。

 比較的新しいアプリケーションでも、市場で基盤を確保できなかったために切り捨てられたものがある。YouTubeに対抗するために2006年12月に投入されたSoapboxでは、Microsoftがオンラインビデオ市場で2%のシェアしか獲得できなかったため、2009年9月に同サービスが終了することになった。「PerformancePoint Server 2007」は4月に販売中止となった。これは、Microsoftが企業戦略を転換する必要があると判断したことによるもので、同アプリケーションのモニタリング機能と分析機能は、「Microsoft Office SharePoint Server Enterprise」に統合された。

 ニッチ市場にしか受け入れられなかったために販売中止になったアプリケーションもある。Microsoftが2年前にリリースした非プログラマー向けのプログラミングツール「Popfly」は7月にサービスが終了した。Microsoftはこれについて、「今日の景気状況の中で優先課題を見直し、再フォーカスする必要があった」と説明した。Popflyはそういった優先課題に含まれなかったのだ。

 これらのプログラムの提供終了は、Microsoftの戦略的再配置の目的が、今後投入されるWindows 7とOffice 2010を単に推進するというだけにとどまらないことを示している。成果を達成できなかったプログラムやレガシープログラムの終了は、OSやプロダクティビティスイートなどのコアビジネスを中心に優先順位を見直す必要性をMicrosoftが認識したことを示唆するものだ。同社のコアビジネスに対するGoogleやAppleなどのライバル企業からの攻勢は日増しに強まっている。

 景気後退もMicrosoftのプログラム削減を促す一因となったようだ。同社の2009年度第4四半期の売り上げは、前年同期比13%減の131億ドルだった。Microsoftのクリス・リデルCFO(最高財務責任者)は7月23日の決算報告会見の中で、「売り上げ減少の主要な原因は、標準的PCの販売が16〜18%減少したことであり、これがMicrosoftの新製品の需要減少につながった」と説明した。

 米調査会社Pund-IT Researchのアナリスト、チャールズ・キング氏は米eWEEKの取材で「高度に戦略的にフォーカスしている企業は、今日のような景気悪化を機に事業の見直しを行い、何がうまくいっていて何がうまくいっていないか判断することができる」と述べている。「要するに、スティーブ・バルマー氏と同社幹部は各戦略グループを回って『これはうまくいっているのか?』と質問していったのだ。うまくいっていないのであれば、『成果を上げるまでどのくらい時間がかかるのか?』と尋ね、その時期が受け入れられない場合は『今すぐ中止しよう』ということになったのだ」

 キング氏によると、長期にわたっての相次ぐプログラム削減は、新市場への事業拡大を目指したMicrosoftのこれまでの戦略を浮き彫りにするものだという。

 「同社は市場が非常に急速に変化していることを認識し、自社の得意分野にとどまることなく、新たな分野のビジネスに進出することが重要だと考えたのだ。それが成果を上げることもあれば、そうでないこともある」とキング氏は語る。

 例えば1990年代末、Microsoftはソフトウェアとアプリケーションをデジタル放送に連係することを狙い、CATV各社に何十億ドルもの投資を行ったが、この取り組みは行き詰まった。しかしXboxによるゲーム市場への進出など、大きな成果を上げた取り組みもある。

 Microsoftは現在、自社の伝統的な製品(Windows 7やOffice 2010を含む)が成果をもたらす可能性が最も高く、小規模でリスクの高い取り組みは中止すべきだと考えているようだ。同社はWindows 7の推進に向け、低価格路線を打ち出すとともに、大規模な広告キャンペーンを展開している。Office 2010に関しては、Google Appsなどのクラウドベースのサービスとの競争力を高めるために、一部の機能がWebベースの無償サービスとして提供される予定だ。

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