誠 そうなんだ。対策には二種類あるんだ。本当の「問題の解決」と「対症療法」だ。違いは分かるかな?
久美 ええと、「問題の解決」は問題の根本的な原因に対応していますよね。でも、「対症療法」は原因ではなく起こっている状況に対して個別に対応している、ということですか?
誠 そう。この資料だけど、各部門の問題をまとめて個別に対策を立てている。問題に対応することはとても大切なことだ。しかし、この資料を見る限り問題の根本的な原因を分析していない。これは典型的な対症療法だ。これだけでは現状は改善することはないし、また必ず同じ問題が発生する。
誠は久美がまとめた資料をめくり、あるページを指して話し始める。
誠 例えば、ここに「顧客の苦情が頻発しているため、コールセンターへの問い合わせが急増、顧客満足度の低下も招いている」ってあるよね。この対応として、「コールセンターの対応要員増強」と「商品の品質向上」がある。そもそも、「苦情が頻発している」原因って、何なのかな?
久美 ここにも書いている通り、「品質が悪いこと」だと思います。
誠 ミスター会計参謀を出したのは3年前だよね。その間、対策は打っていて、何らかの改善はできているはずだ。この三年間の進ちょくはどうなのかな? 何をやってきて、何ができていないのかな?
久美 うーん、その点は十分に分析できていないんですよね。
誠 「品質が悪い」というのは、何をもって悪いと判断しているのかな?
久美 顧客からの苦情です。
誠 でも、顧客からの苦情って、サービスの問題かな? もしかしたら別のことが原因なのかもしれない。
久美 うーん、確かにそうですね。
誠 肩凝りのケースと同じだよね。「肩が凝る」が、「顧客からの苦情」に変わっただけだ。
久美 …….対症療法ですね。
誠 マッサージに通っても肩凝りが治らないように、対症療法を繰り返しているから、顧客から苦情が頻発する状況も解決しない。
久美 おっしゃる通りです。
誠 厳しい言い方になるけど、この資料は、問題点と、現在の対策を列挙しているだけだ。一見、問題分析のように見える。でも、実際には問題の根本的な原因は分析していない。「今、自分達がやっていることは正しい」という思い込みがあるような気がする。
久美 肩凝りの場合は簡単ですよね。でも実際の仕事だと、これだけたくさんある問題を整理するだけでとっても時間がかかりました。全部をさらに1つずつ深く分析するのは大変です。どうすればいいんでしょう。
誠はちょっと考えながら、コーヒーを一口飲む。
誠 ……。原因分析とその対策を集めただけでは、本当の問題解決はできないんだよ。
久美 え? 原因分析を集めた結果が、問題解決になるんじゃないんですか?
誠 そういう考え方だと、まさに問題を整理しきれないジレンマに陥ってしまう。個別の原因に対して個別に対策を作っただけではダメだ。お互いに関連し合っていないと、一貫性がない場当たり的な対策の集まりになる。その結果、膨大な時間をかけても、なかなか成果が出ない。
久美 うーん、困りました。どうすればいいんでしょうか?
誠 全体の問題と原因を把握した上で、シンプルで骨太なストーリーを作るんだ。カギとなる問題と原因を分析した上で全体を貫くストーリーを考えて、その上で仮説を立て、現在の問題がどのように解決するのか分類していくんだ。
久美 なるほど。「木を見て森を見ず」の状態だったということですね。
誠 ただ、まだまだ問題と原因の深掘りが不十分だし、整理し切れていないように思う。だから、今は「そんな考え方もある」と思っていればいい。まずは問題と原因の深掘りと整理だ。次回のコーチングまでにまとめてみるといいんじゃないかな?
久美 分かりました。まとめてみます。
誠 緊急事態のようだし、またすぐにやろうか?
久美 ありがとうございます!それまでにまとめておきますね。
誠 じゃあ、その結果を教えてもらいながら、進めよう。
まとめるとは言ったものの、カフェを出た久美の頭の中には膨大で処理しきれない現在の問題と対策で一杯だった。どうすればまとめられるんだろう?
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