問題が起こったときに必要なことは、貪欲かつ謙虚に、事実を分析し検証することだ。具体的な対策を考えるのは、問題と原因を整理し、ストーリーを構築した後だ。
ここで間違いがちなのは、既に実施している対策をそのままアクションプランとすることだ。アクションプランに沿って問題の原因分析にまでさかのぼり修正をするようなケースは、論外だ。
厳しい言い方になるが、既に実行していることを列挙するだけであれば、頭に汗をかかなくてもいい。しかし、これでは決して問題は解決できない。特に仕事が多忙を極めると、「とにかく、何らかの成果を出さなければ」と焦り、このような誘惑に駆られがちだ。
現状を肯定している限り、問題は解決できない。現状を否定する勇気を持つことだ。その勇気を支えるのは、事実に基づくデータだ。あくまで事実が出発点なのだ。そしてそれを行えるのはリーダーしかいない。
問題に対してその場限りの対応策を講じてしまうこともある。個別の問題への対応策も大切だが、多くの場合、これらは「対症療法」であり「問題解決」ではない。本質的な原因を見極めることが、同じ問題が発生しないような仕組みを作り上げ、真の問題を解決することにつながるのだ。対症療法と問題解決の違いは、久美ちゃんへ「肩凝り」の説明をした通りだ。
例えばビジネスで考えてみよう。顧客でトラブルが頻発している場合、迅速に対応することは最優先課題だ。誠意を込めた対応と迅速な回答は、顧客満足度を高めることにつながる。だが、トラブルが頻発するということは、厳しい言い方になるが、これらの対応が対症療法である可能性が高い。
トラブルの内容を分析し、トラブルが起こる要因を特定して、将来トラブルが発生しないように解決を図ることが重要だ。トラブルの発生要因を特定し撲滅することこそ、問題解決だ。こうした取り組みは努力が報われるまで時間がかかる。成果がなかなか出ないからだ。目立たないし地道な作業だ。だが、重要度は極めて高く、決しておろそかにしてはいけない。
問題が起こった場合、われわれは対症療法に走りがちだ。確かに対症療法も重要。だが、問題解決という視点を忘れないようにしたい。
また、ビジネスの現場では問題分析は多岐にわたることが多い。個別の問題に対応したものをまとめても、一貫性を失う危険性がある。シンプルで骨太なストーリーを作ることが必要だ。
個別の問題に対する対策をまとめたものは、個別最適の集まりでしかない。個別最適を集めても、組織全体の力は発揮できない。組織全体の力を発揮させるためには、全体最適が必要だ。シンプルで骨太なストーリーは、個別の問題に対する対策を連携させ、この全体最適を実現するために必要なのだ。
しかし繰り返すが、問題の原因を分析する前に対策は立てないことが大切だ。
今回記事として掲載した本書の第5-2章から第5-4章では、久美が試行錯誤をしながら、この問題に真正面からぶつかり、真の問題解決を図っていく様子を描いています。
(注)本書に掲載された内容は永井孝尚個人の見解であり、必ずしも勤務先であるIBMの立場、戦略、意見を代表するものではありません。
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日本アイ・ビー・エム株式会社ソフトウェア事業部にて、マーケティングマネジャーとして、ソフトウェア事業戦略を担当。グローバル企業の中で、グローバル統合の強みを生かしつつ、いかに日本に根ざしたマーケティング戦略を立てて実践するのか、格闘する日々を送っている。アイティメディア「オルタナティブ・ブログ」の「永井孝尚のMM21」で、企業におけるマーケティング、ビジネススキル、グローバルコミュニケーション、及び個人のライフワークについて執筆中。9月29日に新著「朝のカフェで鍛える実戦的マーケティング力」を出版。過去の著書に「戦略プロフェッショナルの心得」がある。
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