これぞ高専――実践力を生かしたユニークな創造作品が全国から集結高専プロコンリポート(3/4 ページ)

» 2009年10月23日 12時00分 公開
[上口翔子,ITmedia]

体感ゲーム「Domitory Night―夜の住人たち―」(沖縄高専)

 創立して間もない沖縄高専の知名度を上げるべく、地元の小中学生が高専に興味を持つようなゲームを開発したい――そんな思いから作成されたのが、夜の学生寮を舞台にした高専生活体感ゲーム「Domitory Night―夜の住人たち―」だ。

 沖縄高専では1、2年生が全寮制だが、セキュリティの関係上、寮の構造や生活に関する情報は公開されていない。つまり沖縄高専入学を希望する中学生にとって寮生活とは未知のものであり、興味を持つとともに、不安要素の1つでもある。その不安を少しでも取り除き、また「高専ならこんなゲームが作れる」と思ってもらうことで、高専に興味を持つきっかけを作りたいという。

 ゲーム内容は「あしたテストだということを知って慌てた主人公が、外出を禁止されている時間に見回り(教員や風紀委員)の目をうまくすり抜け、過去問を持っている友人を探しにいく」というもの。鬼ごっこと隠れんぼのルールを基本とし、独自のいす型コントローラーで前後左右に体重移動をすることで、ストーリーを進めていく。

(左)左に表示されているのが、実際にゲームで移動するフィールドマップ。選択する宿直の教員によってゲームの難易度が変わる
(右)全体の構成図。スクリーン正面にいす型コントローラー(動作可能範囲は80〜90キロ)を設置し、PCといす型コントローラーをUSBケーブルで接続している

 画面遷移はタイトル画面から名前入力、宿直選択画面を経て、実際のゲーム画面に行く。ゲームが終了したら、リザルト画面に行き、クリアした場合はエンドロールが流れ、その後タイトル画面に戻るようになっている。

 先日、地元の沖縄で行われた産業祭りで5〜26歳の方々にゲームをプレイしてもらったところ、多くの人が「高専に興味を持った」という感想を述べたという。

(左)いす型コントローラー
(右)沖縄高専のメンバー(左から、新川真以さん、新垣綾乃さん、比嘉健太郎さん、新垣友望さん、出水ちあきさん)

自由部門 特別賞「The Project. ER―授業補完計画―」(弓削商船高専)

 電子化が進む昨今の授業環境に着目し、学生と教師の双方にメリットとなる授業環境を提供する教育支援システム「The Project. ER(ザ・プロジェクター)」。弓削商船高専が発表したこのシステムは、パワーポイントの資料をベースにしたeラーニングサーバ(moodle)との連携、かつ複数台のプロジェクターを用いた協調投影により、数枚のスライドをしばらく残しながら授業を進められるといった従来の黒板方式(黒板を3つに区切り、古い個所から順番に消していく)に近い環境を、パワーポイントを用いた授業でも実現するというものだ。

 現状のパワーポイントを用いた授業は、常に1枚のスライドしか表示されないため、切り替わりが速く、学生はノートを取る余裕がない。また、eラーニングはWebインタフェースなので、どこからでも編集・操作ができるが、入力が難しく、図を入れようとした場合には手元で図を製作してアップロードするなどの手間が掛かっている。

 弓削商船高専ではThe Project. ERを導入することで上記の課題を解決し、さらに授業の質を向上するためにビデオを用いた授業記録、パワーポイントからの問題登録機能、授業後アンケートを登録できるMinute Paper、iPod touchなど携帯端末との連携を可能にした。

(左)システム構成図。教室に設置した投影用PCとビデオ録画用PC、そしてeラーニングのサーバとで構成される
(右)投影の様子。デモンストレーションでは3つのモニターを使用

 複数のプロジェクタを用いたスライドの多画面投影には、さまざまな授業形式に対応するため、通常/スクロール/国語/資料固定という4つの投影モードが用意されている。例えば通常投影モードならば左から右へ板書が移動する場合、スクロール投影ならばスライドが右から左へ流れていく場合に使用される。

 スライド(黒板)が遠く資料が見えない学生、および自分の授業を見直して検証したい先生向けに有効なのが、授業が終わった直後から見直すことのできる機能だ。録画した授業映像は自動でE-learnigサーバへアップロードされる。その際、動画ファイルはmp4形式に変換され、容量は60分の1になるという。これにより、さまざまな端末での閲覧も可能にする。

先走ってスライドを見ようとすると、×マーク(白紙ボタンと命名されている)が表示される

 授業を行う教官は、事前にeラーニングサーバ(moodle)に授業で使用するパワーポイントの資料をアップロードしておく。この資料はほかの教員とも共有できる。また、資料とともにスライド1枚1枚を画像に変換しておくことで、iPod touchなどでの閲覧が可能になる。ノートを取るのが間に合わない場合や複数台のプロジェクターを用意できない場合に対応するため、このような機能を実装したという。

 学生が教師の示すスライドよりも先に進んでしまい話を聞かないという場合を避けるため、端末で閲覧できるのは、授業で公開したスライドまでするなど、細かい個所まで工夫を凝らしている。

 授業の最後には、ミニッツペーパーと呼ばれる簡単なアンケートを行う。このアンケートで、今日の授業で重要だったところ、また分からなかったところは? といった質問をすることで、学生は要点を整理し、自然とまとめる力を身につけていく。また教師もミニッツペーパーを見ることで、学生の理解を確認し、それに対応した授業作りを行うことができる。

 The Project. ERを弓削高専の情報工学科の教員に使用してもらったところ、「とても魅力的だ、実際に使ってみたい」といった意見をもらえたという。プロコン会場でのデモンストレーション審査では「パワーポイントを用いた授業は学生に不評で、学生はノートを取りたがっている。教員側としては板書するよりもプリントを配る方が楽なのでそうしているが、学生にノートは取らせたい」といった意見を得られたという。まさに、学生と教師両方のニーズを満たすシステムといえそうだ。

(左)パワーポイントを用いて問題登録をする様子
(右)弓削高専のメンバー。左から、宮岡まことさん、坂口ちさとさん、松本優幸さん、桑田圭佑さん(桑は俗字)、石丸武臣さん。彼らのプレゼンテーション審査は非常に安定していて、審査委員からのうけもよかった

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