これぞ高専――実践力を生かしたユニークな創造作品が全国から集結高専プロコンリポート(1/4 ページ)

全国高等専門学校の学生たちが独自の発想やシステム開発力を競う「高専プロコン」が開催。課題/自由部門ではタッチパネルやARなど話題の技術を取り入れたユニークな作品が登場した。

» 2009年10月23日 12時00分 公開
[上口翔子,ITmedia]
かずさアカデミアホール 第20回高専プロコンの会場となった「かずさアカデミアホール」

 若者の理科離れが叫ばれる中、中学卒業後すぐに理工学系を主とする実践的教育機関に身を置く高等専門学校生(通称、高専生)。5年間の学生生活のうち、教養科目のほとんどを2年で終え、残りの3年間はどっぷりと専門科目・研究に浸る彼らがその実力を試す場として用意されているのが「高専ロボコン」「高専プロコン」と呼ばれる2大コンテストだ。

 10月17〜18日の2日間、千葉県木更津市の「かずさアカデミアホール」で開催された高専プロコンには、設けられた課題/自由/競技の3部門に、予選(今年6月に東京で実施)通過チームが全国各地から集結。各チーム自慢の作品を披露した。また今年の高専プロコンは20周年の節目の年であると同時に、ベトナム中国、モンゴル、台湾の学生も交えた「NAPROCK第1回国際大会」でもあることから、学生間の国際交流の場としても注目された。

 課題/自由/競技のうち、競技部門の結果については「『最強最速』を見せつけた浪速の高専生」をご覧いただきたい。ここでは課題部門の23作品と自由部門の20作品の中から、自由部門を中心に数作品をピックアップして紹介する。

モノづくり総合力が問われる課題/自由部門

 本コンテスト初取材の記者は、これまで高専プロコン=プログラミング技術を競うコンテストだと思っていた。競技部門については、そう言ってしまってもよいだろう。競技部門では、提示された問いに対して、いかに有能なアルゴリズムを組み立て、解いていくかが勝負となり、計59チームの直接対決で最終的に勝ち残ったチームに最優秀賞が与えられる。

デモンストレーション会場の様子 デモンストレーション会場の様子

 対して、これから紹介する課題/自由部門は少し違う。開催2日間の中で、初日に行われる「プレゼンテーション審査(10数名の審査委員の前で代表者1名が学会形式の発表8分と質疑応答4分を行う)」と、2日目に行われる「デモンストレーション審査」「マニュアル審査(審査委員の前で作成した技術作品を実際に動作させながら説明する)」を基に、作品の「独創性」「有用性」「完成度」などが総合的に評価される。プログラミング能力だけでなく、プレゼンテーション能力やマニュアル記述力も審査されるのが特徴だ。

 実際に両部門にエントリーされた作品を見てみると、募集要項では独創的なコンピュータソフトウェア(課題部門では事前にテーマが発表され、そのテーマに沿ったもの)が提出作品とされているが、タッチパネルや自作のコントローラーなど、特に自由部門ではデバイス面にも工夫を凝らしているチームが多く見受けられた。開発に最も時間を費やした点を聞いて、ソフトよりハードを挙げるチームがいるほどだ。

自由部門 最優秀賞/文部科学大臣賞「ポップスプレー―POP'S PLAY―」(香川高専 詫間キャンパス)

 まずは自由部門の作品を紹介していく。なお、初日のプレゼンテーションは課題部門と自由部門が同時刻に別会場で行われるため、両方の審査を見ることができない。記者は今回どちらの部門を見るか悩んだ結果、自由部門に絞って全チームのプレゼンテーションを見ることにした。というのも、これから紹介する香川高専プレゼンテーションを最初に見て、ほかにはどんな面白い作品が出てくるのだろう、とその場を離れられなくなってしまったからだ。

 自由部門で最優秀賞に輝いたのは、香川高専 詫間キャンパス。壁や布にスプレーで絵を描く“スプレーアート”を手軽に楽しめる作画システム「ポップスプレー」を開発した。その仕組みは、超音波センサー/加速度センサー/Webカメラで構成された非接触スプレーデバイスで空間位置、姿勢情報を読み取り、ディスプレイ上に色や形状を映し出すというもの。

 実際のスプレーアートは準備や後片付けが面倒で手も汚れるが、ポップスプレーはディスプレイに描画するため、誰でも手軽にスプレーアートを楽しむことができる。プログラム面では、通常のスプレーでは表現できないアニメーション変化などコンピュータならではの多種多様なブラシ表現や、油絵や版画のような材料面の立体感を出せるよう実装していた。カメラ映像や音声を認識し、それを素材として描画できるなど、新感覚のアート体験も実現できるという。

(左)ポップスプレーのシステム構成
(右)フリーペイント、練習、ギャラリーといった3つのモードがある

 各種センサーはディスプレイの位置検出に、カメラはスプレーの形や色に反映するために利用する。超音波センサーの位置検出では、スプレーデバイスの送信機で超音波を発信し、ディスプレイ側に取りつけられている受信機が超音波を受信するまでの応答時間を検出する。その際、3点以上の検出が行えれば、スプレーの体系的な位置が検出できるという。

香川高専のメンバー 香川高専のメンバー(3〜4年生の有志で結成)。最も苦労した点は「スプレーの滑らかさを表現すること」だったという。審査委員からは、「実際にスプレーアートの専門家に使ってもらったか」など、クリエーターにとってどのくらい有用なものかを評価すると良いというコメントが述べられた

自由部門 優秀賞/東芝ソリューション賞「TEE―手袋型生活支援インタフェース―」(沼津高専)

 「老人や介護が必要な方、基本的に寝たきりの人が、自分の力だけでモノを動作させることができたら、素晴らしいことだと思いませんか?」――審査委員に語りかけるようにプレゼンテーションを開始した沼津高専。開発したのは手袋型生活支援インタフェース「TEE(テー)」。手で簡単なジェスチャーをするだけで、明かりをつけたり、スカイプと連携してネット電話ができるというものだ。

 システムは利用者の手の動きを感知する手袋部(入力装置)、手袋部からの情報をBluetooth経由で受信して制御対象に指令を送るPC、PCからの指令をUSB経由で受け取り複数の動作対象を動かすための専用コンセントタップの3つで構成されている。手袋部には曲げセンサー、加速度センサー、マイコン、LED、Bluetooth、電池が取りつけられており、手をグーからパーにするなど、単純な動きでライトや扇風機などの家電製品を制御できる。

(左)TEEの全体図
(右)指文字の音声翻訳機能も付けているという

 こうした直感的な動作に加え、視覚的にも分かりやすいように動作時にはLEDランプが点灯するなどの機能も付けている。バッテリー駆動時間は、9V電池でおよそ4〜5時間。PCの表示されるGUI、使用者がより分かりやすいように、文字をできるだけ使わず絵で表現した。

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