世界で勝つ 強い日本企業のつくり方

「地方へ販路を拡大し国産ブランドからシェアを奪う」――ソニーチャイナ・永田社長世界で勝つ 強い日本企業のつくり方(2/3 ページ)

» 2009年11月20日 08時00分 公開
[聞き手:怒賀新也, 伏見学,ITmedia]

地方都市の販売ネットワークを

ITmedia 少子化などによって日本経済が縮小に向かう中、中国をはじめ新興国の内需に日本企業の期待が集まっています。実際に中国でビジネスをされている立場からどのようにお考えでしょうか。

永田 中国でもほかの新興国でも同じだと思いますが、消費者の生活水準が高まり購買力が向上したという点でマーケットに魅力があります。ビジネス機会の広がりに伴い、競争が激しくなってきています。中国の家電業界は製品カテゴリーごとに様相が異なります。デジタルカメラの領域には中国の国産ブランドはあまり参入しておらず、ソニーやキヤノン、Samsungといった外資企業が競い合っています。

 一方、テレビに関しては中国の国産ブランドが10社以上存在しており、マーケット全体の売り上げの7割近くを占めています。残りの3割の中にソニー、シャープ、サムスンなどがひしめき合っているのです。

 デジタルカメラの場合、例えばソニーとキヤノンが競争しようと両社の経営環境や経営への制約はほぼ同じ条件です。ところが、競争相手が国産ブランドのテレビの場合、開発費の掛け方やパネルの調達方法など難しい競争の論理が働きます。国産ブランドに対する中国政府の支援や期待は強く、成長を助けるような政策を出してくるため、競争は一層厳しくなります。

 中国は国土が広く人口が多いため、いかに販売ネットワークを構築するかが鍵を握ります。既にブラウン管テレビの時代から国産ブランドは、サービスステーションや倉庫、生産工場を小さいものも含めて数カ所持っています。かたや外資ブランドは、購買力のある大都市の販売ネットワークをまず整備するため、地方の第2、第3都市への展開は遅れていました。決定的な差があるとすれば、外資ブランドはそのネットワークづくりをしている最中で、国産ブランドはほぼ完了している点です。

 中国では内需拡大に向けて農村での家電製品の普及を促進する「家電下郷」という政策がとられています。企業がこの政策に参加するには売値の制限があったり、サービスステーションが村の近くにあったりとさまざまな基準をクリアしなければなりません。いわば国産ブランドに有利となる枠組みと言えます。

 ソニーも地方へ打って出なければなりません。米国と同じく中国でも地方のスーパーマーケットに家電売り場があります。今までは国産ブランドしか置いていませんでしたが、そうしたチャネルにも入り込めるよう販路を広げていく必要があります。

ソニーが北京で実施したデジタルイメージング商品のアルファ購入者向け屋外撮影体験の様子。アルファ購入者が商品を世に広めてくれるという ソニーが北京で実施したデジタルイメージング商品のアルファ購入者向け屋外撮影体験の様子。アルファ購入者が商品を世に広めてくれるという

ITmedia 日本企業が流通構造に入っていくには障壁が高いということでしょうか。

永田 国産ブランドがあまり成長していないカテゴリーについては問題ありません。ただし携帯電話市場は特殊です。Sony Ericsson、Nokia、Samsung、Motorola、LGなど外資企業ばかりで占められていますが、政府の要求が厳しく中国の独自規格を採用しなければなりません。他国で販売しているものをそのまま持ち込むことはできないため、商品の開発コストなど莫大な投資が必要になります。中国モデルを作るのであれば、それに見合ったリターンがないと投資効果は極めて悪いです。スケールメリットがなければ生き残るのが難しい市場でしょう。

 ソニーに関して言うと、テレビの固定費の改善や新しい商品サイクルをいかに生み出すかという点に注力しているので、あたかも拡大戦略をとっていないように見えますが、長期的な戦略としては数多く商品を売ることには変わりありません。単に価格競争に走るのではなく、マーケットでの自分たちの地位を上げる努力をしていかないと、競争力を獲得できないのが今日の中国市場だと思います。

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