話し相手に意思や思いを伝えることは難しい。相手の気分を害さずに気持ちを伝えるには、話す内容の主語を「あなた」から「わたし」に変えてみるといい。
少し考え方を変えることで、仕事を楽しく充実したものに。「ビジネスマンの不死身力」では、そのノウハウをお伝えします。
仕事をしていると、会社の仲間や顧客に対してさまざまなメッセージを伝える機会がある。その中でも指導や指摘、依頼のメッセージは伝える側も伝えにくく、言われる側も嫌な思いをしかねない。一方期待や感謝などのメッセージは、伝える側にとっては少し気恥ずかしいが、伝えられた側はうれしい気分になる。
このように、メッセージにはネガティブなものもあればポジティブなものもある。今回はこうしたメッセージの種類にかかわらず、少し意識するだけで自分の気持ちを正直に伝え、相手の心に響かせる方法をお伝えしよう。
われわれの仕事は複数のメンバーで構成されることが多い。第三者とのかかわりは自分の仕事にも影響を及ぼすものだ。システム開発の現場を例に取ると、前工程の担当者が他部署の担当や顧客であった場合、彼らが仕様を決めてくれないために、開発が思うように進まないことがよく起きる。このような場合、相手に改善を依頼する必要がある。
以下は改善を促すメッセージで、表現が異なるものを並べてみた。もしあなたが依頼を受ける立場だったら、これらを聞いてどんな気分になるだろうか。
メッセージ1
「いつになったら仕様を決めてくれるんですか?」
「何度言ったら分かってくれるんですか!早く仕様を決めてくださいよ!」
メッセージ2
「仕様が早く決まると、とても助かります」
「仕様が決まらないので、とても困っています」
前者の伝え方は、強制的でプレッシャーを掛けられている感じがする。一方後者は、早く仕様を決めてあげようという気持ちになる。
この例における決定的な違いは「主語」である。1.は「あなた」を、2.は「わたし」を主語にしている。
「あなた」を主語にすると、その次に来る言葉は相手に関連することがらだ。その結果、相手を責めたり行動を無理に変えさせたりするといったメッセージになりやすい。
一方「わたし」を主語にすると、それに続く言葉は「○○されるとうれしい」「○○で困っている」のように、自分がどう感じているかという気持ちや感情をまっすぐに伝えることになる。相手からすると、自分が責められているというプレッシャーを感じにくい。むしろ「自分の行動や言動で迷惑を掛けてしまったので、早く対処しないといけない」といった気持ちが生まれ、改善の行動をいち早く起こすことにもつながるだろう。
「わたし」を主語にして話す方法は、カウンセリングやコーチングでよく使われる技法だ。とても簡単だが、コミュニケーションの達人の多くが使う言葉遣いなのである。
「わたし」を主語にすることで仕事仲間に自分のネガティブな気持ちをうまく伝えることができた知人の実例を紹介しよう。
その知人は、リーダー的な立場で業務に携わり、関係者に仕事の指示を出していたが、メンバーの中には自分がやるべきことをやらない人もいた。そのことを指摘すると、相手は不機嫌になってしまうのだ。
仕事の納期が迫ってきた時に問題が起きた。すぐ不機嫌になってしまうメンバーに任せていた仕事が間に合わなさそうになってきたのだ。知人は最初、いつものように「文句を言う前にやることをやれ」「納期に遅れそうだから心配しているのに、『間に合います』と簡単に口にするな」と責めてしまった。
その言葉を聞いてメンバーは怒り出してしまった。自分は一生懸命やっているのに、不当に扱われていると感じたのだ。このままでは信頼関係が崩れてしまい、ますます仕事が遅れてしまう……。知人は不安になった。
このとき知人は以前耳にしていた「わたし」を主語にするコミュニケーションを思い出した。そこで相手がこれまでやってこなかったことには触れず(責めず)、「必要なことをやってくれることで、どんなにわたしが助かるか」ということを伝えた。
すると、相手は落ち着いて話に耳を傾けてくれるようになった。相手の言い分も聞きながら十分に話し合った結果、そのメンバーは担当から外れることになった。だが「次回はぜひ一緒に開発をやりましょう」とにこやかに締めることができたそうだ。
「『わたし』を主語にしたメッセージは、感情的になっている相手を速やかに落ち着かせ、プライドを傷つけないように自分の思いを伝える上で、非常に役に立った」と知人は話していた。
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