トーマス・ベアデン(出典:Free Energy Congress)
「わたしたち人類の進化は第5段階にあり、より高次の段階へと進化しなくてはならない」――突然こんなことを伝えられれば、多くの人はそこに宗教的なにおいを感じ取ることでしょう。しかし、こうしたことを科学的に考える研究者も少なからず存在します。
そんな研究者の1人に、トーマス・ベアデンも名を連ねています。ベアデンは20年間の軍歴を持つ元米国陸軍大佐で、陸軍に在籍中は、ミサイルを専門としていました。1971年にジョージア工科大学で原子力工学の修士号を取得し、ノースイースト・ルイジアナ大学で数学の学位も得ています。退役後しばらくは航空宇宙関連の企業でミサイル関係の業務についていましたが、その後ニコラ・テスラ協会などの活動で理論的な支柱として活躍しています。ニコラ・テスラが発見したという電磁波の一種「テスラ波」を「スカラー波」と理論化したのもベアデンです。
生粋の科学者であるベアデンは、1960年代半ばから超常現象にも興味を持つようになり、やがてすべての超常現象が相互に関連していると考えるようになります。そして、それらの現象を解明する新しい理論の枠組み作りに没頭していきます。
そんなベアデンの最大の関心事は、種全体としての人類がより高次の生命形態へと進化していくことにありました。ベアデンによると、生態システムにおける生命の発達は次の7つの段階に分けられるといいます。
- 第1段階:惑星・原始大気、海洋の形成
- 第2段階:アミノ酸などの有機分子の出現
- 第3段階:自己複製を行う高分子の出現
- 第4段階:単細胞生物の形成
- 第5段階:多細胞生物の形成
- 第6段階:知的でテクロノジーを備えた種の頭脳のリンケージ
- 第7段階:究極、つまり神のような存在
これを地球における知的生命の進化とひも付けると、以下のようなものであるといえるでしょう。
- 第1段階:46億年前に地球が誕生し、その数億年後、原始大気と海洋が形成
- 第2段階:アミノ酸など、生命の素材となる有機分子が形成
- 第3段階:有機分子が結合し、複雑な分子が誕生。その中から自己複製するDNAやRNAなどの分子が誕生
- 第4段階:複雑な分子から単細胞の細菌が誕生。それらの一部は光合成により大気中に酸素を蓄積
- 第5段階:単細胞生物から多細胞生物が誕生。さまざまな種類の生物に分化。この段階の最後に知性を持つ人間が誕生
ベアデンは、生命体の行動には、遺伝的にプログラムされた行動とそうでない行動という2つの主要な形態があると考えました。つまり、ある生命体の行動を制御するパターンには遺伝的な「非適応的モード」と、生後の学習によって作られる「適応的モード」が存在すると考えたのです。生命体の知性が向上すると、遺伝的にプログラムされ、ハードウェアに組み込まれている行動制御は減少することになります。
さらに、知的な生命種はテクノロジーを使用するものと、しないものの2種類に分けられます。この分類によると、人類は第5段階に当てはまるというのがベアデンの考えです。知的な種は相対的にプログラム化されていないため、高い適応性と競争力を持っていますが、その種に固有の抑制と均衡をつかさどる機能が弱まったり、ときにはまったく消滅することがあります。このためテクノロジーを有する種の内部抗争は次第に残虐さを増していき、テクノロジーが高度になるにつれ、それは致命的なものとなります。そこでベアデンは、もしこの段階からつぎの第6段階へと進化しないならば、人類は最終的には自滅すると考えています。
ベアデンは精神工学を使って、ホモサピエンスという種のすべての個体の頭脳をリンクさせ、単一の「頭脳」を構成することで、第6段階へと進化できるという仮説を立てます。テクノロジーによって現在のような約65億の断片的な個人意識を集合的意識へとリンケージすることで、それが達成される、さもなければ第5段階の種は消滅せざるを得ないというのです。ベアデンは、この宇宙にテクノロジーを有する、人類に似通った種が存在しないのも、この理論で説明できるとしています。
ここまでお読みになって、「何か聞いたような覚えが……」と思われた方もおられるかもしれません。押井守がストーリーコンセプトで参加している作品で「攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG」(神山健治監督)というアニメがありますが、その中でクゼ・ヒデオが実行しようと試みたのが、まさに第6段階への進化だったということができるでしょう。物質の制約から放たれた上部構造へのシフトという視点は、ベアデンの考えと共通点が多くあります。
一見するとオカルト的なこの理論ですが、人類は進化の新しいフェーズに入っているという点で見解を同じにする人物もいます。英国生まれの理論物理学者、スティーブン・ホーキング博士です。ベアデンは知らなくても、ホーキング博士は知っているという方も多いでしょう。そんな著名な彼も、アプローチは違うものの類似した理論を提唱するに至っています。
過去、人類の進化はランダムな突然変異から自然淘汰(とうた)を経て続いてきました。一方で、言語の誕生により、人類がこの1万年、とりわけこの300年間に蓄積してきた知識は、すさまじい情報量として蓄積されています。ホーキング博士は、DNAで伝達している内的情報に限らず、外的に伝達されている情報も進化に寄与していると述べています。
さらに、テクノロジーの進化にともなって、人類は自らのDNAに手を加えるまでになりました。つまり、進化のデザインを自ら選択(これを博士は『自己設計進化』と呼んでいます)できるのです。遺伝子操作に対する倫理的問題は常に話題となりますが、この流れは止められないだろうとホーキング博士は予想しています。その先には、博士いわく「知的マシン」(Intelligent Machine)などの登場が予想されていますが、このような知的マシンは、過去にDNAがそれ以前の生命に取って代わったように、DNAベースの生命を置換するかもしれないと話しています。
精神工学でホモサピエンスという種のすべての個体の頭脳をリンクさせ、単一の「頭脳」を構成することが可能かどうかは分かりません。しかし、DNAで伝達している内的情報による進化のスピードに、外的な情報が何らかの加速度を与えていることをわたしたちは肌感覚的に感じ取っているようにも思います。ベアデンのいう第6段階とは、案外遠くない将来に人類が体験する進化なのかもしれません。
DNAで伝達している内的情報だけでなく、膨大な外的情報も進化に影響を与えています。コミュニケーションの行き着く先は同化なのでしょうか
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