誰も教えてくれない「Androidで食えるのか?」賢者の意志決定(2/2 ページ)

» 2010年01月23日 00時00分 公開
[深津貴之,ITmedia]
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ビジネスとして

 作り手として一番クリティカルな問題である、「(Androidアプリで)食えるのか?」。これは、はなはだ疑問である。受託であれば食べられるのかもしれないが、単価を考えると受託でやるならFlashかWebサービスを作る方が“鉄板”だろう。

 印象としては、アプリストア「Android Market」の設計思想が非常に悪く、ユーザーを購入まで誘導するのが難しそうだと感じた。上述したようにアプリのアベレージの品質が低い点と、Googleの無償文化なども影響し、購入レートがiPhoneアプリよりだいぶ下がりそうである。

 また、アプリごとのマナーが異なり、学習コストが跳ね上がっているため、文化として気軽に無料のアプリを散策していける習慣が発生しにくいと予想される。

 このため、ハブを持ったプレーヤーか、口コミ定番以外の経路が発生しづらく、普通にアプリを売ろうとすればiPhoneアプリより広告コストが必要なんじゃないの? というイメージだ。そうなると、日本出身のプレーヤーにはいろいろ大変そうである。

 もう1つ非常に気になるのが、「iPhoneはアプリが多すぎて参入が難しい! 、でもAndroidならチャンスがある!」と叫んでいる層が、受託企業かコンサル系ばかりであることだ。その上iPhoneアプリがいかに面倒かという分析の割に、Androidのアプリストアの分析がおろそかなので、この辺りの発言はあまりリサーチに基づいていないのではないかと思う。

 また、開発者で実際にそれなりの成果を上げたプレーヤーが表に出てきていないことも指摘したい。彼らのビジネスモデルは受託業務になるため、Androidアプリそのもののコストとリターンはクライアントが背負うことになる。そのためAndroid最高! という風潮は、ある種ノーリスクなプレーヤーが扇動している、一過性のブームである可能性を慎重に考える必要がある。アプリを企画することと、アプリを出すことと、アプリを作ることのどこがビジネスなのかを見極める必要がある。

 とはいえ、Androidがモバイルの主流になるのはほぼ確定なので、観測気球であると自覚した上で、アプリを今のフェーズで打ち上げる価値は十分にありそうだ。個人的には、ユーザーへの露出と導線の確保、またデバイス間の動作保障コストを考えると、キャリアや端末ベンダーがスポンサーにでもならなければ、様子見に徹し、積極的参入は避けたいところである。

 筆者の肌感覚では、オリジナルのAndroidアプリ専業で食うには、iPhoneの3〜4倍難易度が高いとみている

 Nexus Oneの初週の売り上げがたった2万台という話についてだが、これは市場的な問題というよりは、どちらかというとGoogleのマーケティングが失敗したのだと思う。サプライズ戦略が失敗というか、Google直販で携帯を買うようなメインターゲットが既にDroidで2年縛りなだけなのではないだろうか。ただ、2万台のうち1万5000台ぐらいは、デベロッパー購入の開発機ではないかという疑念もある。

プラットフォームとして

 現状のままいけば、Androidはほぼ間違いなくモバイルのマジョリティを獲得するだろう。

 AndroidのポジションがWindowsになるかLinuxになるかは、まだ見極められない。Linuxのようにサブバージョンの波に飲まれて、マイナー志向に陥る可能性も十分にある。ただし、スマートフォンが本格化するにつれ、純国産スマートフォンはもう無理だろうなとは思う。

 恐らくは今後数年で、微妙に官庁主導か、キャリア連合で純国産のモバイルプラットフォームを作ろう! といった動きが出てくる。そして、大人の事情で品質ではiPhoneに劣り、数の論理でAndroidに劣りで、ニッチもさっちもいかなくなるかというのが筆者の考えだ。

 最終的には、国内の携帯市場の飽和に伴い、アジアと北米での販売を踏まえて、米国からDroidベースなどのパッケージ化されたAndroid OSをライセンスで購入するという、残念なシナリオになるのではないだろうか。もちろん独自路線で微妙なAndroid OSを作るという線も当然あるのだが。

 個人的にはこのAndroidブームのどさくさに紛れて、Adobeの活躍を期待していたりする。AndroidへのFlash 10搭載による競争力の強化をカードに、iPhoneへ搭載できればAdobeの勝利である。基本的にデバイスやプラットフォームがカオスになればなるほどAdobeは有利となるため、ここ2年ぐらいがAdobeの正念場のはずだ。

 さらに言えば、AdobeがFlashやAIRがコアレベルで融合したAndroid OSを作るという方向に動くとステキである。iPhoneみたいなスリックなUIの携帯が簡単に作れますよといって、パッケージをばらまくという戦略だが、さてどうだろう?

HTML 5および、クラウドアプリは来るのか?

 Adobe Flashの支配を回避しつつ、iPhoneとAndroidの両プラットフォームを食うという発想に立つと、HTML 5系のアプリとクラウドクライアント型のビジネスモデルを考えがちだが、ここはまだ疑問だ。HTML 5は正直言ってGoogle Maps以降のAjax vs Flash幻想の焼き直しであり、HTML 5がFlashなどを食ってプラットフォームレイヤーとなる可能性は非常に低いと言わざるを得ない。

 HTML5が本格的に起動するのは2012年以降であり、仕様策定のフットワークが悪いのも問題だ。現在のHTML 5そのままではマルチタッチや、センサー、電子書籍などをはじめ、モバイルへの過渡期に発生する新技術のほとんどが2012年まで放置されることになる。その結果、デバイスに特化したアプリは、恐らくInternet Explorer対Netscape戦争で起きたような、独自仕様のラッシュとなるのは目に見えている。マルチプラットフォームのアプリを作るのは難しいのではないか。結局はGoogle DocumentやGoogle Mapsの延長のテクノロジー、あるいはウィジェット製作ツール程度に考えた方がよいのではないかと思う。

 クラウドはもっと悲観的だ。クラウド系アプリは、設備と規模が暴力的な強さを発揮するので、日本のプレーヤーは、日本生まれで英語ができないというだけで、圧倒的に不利である。英語・中華圏の方が有利なのではとも思う。ただ、それさえ担保できれば、クラウドベースのアプリはかなり有効だ。10年ほど前、筆者は大学時代の授業の発表で、「WebはオンラインにCD-ROMを置くよりも、オンラインのスパコンから処理結果を貧弱な携帯クライアントに投げる方向に進化する方がいい」といった旨の提案をして失笑されたが、そういう時代が本当に夢ではなくなりそうである。

 まとめると、Nexus Oneを触った限り、まだAndroidに参入するタイミングではないかな? という結論である。iPhoneを基点にスマートフォンのUIとマーケティングのノウハウを蓄積しつつ、Flash for iPhone、ひいてはFlash for Androidの到着を待つ、というのが筆者のポジションである。

 ただし、Nexus Oneは買う価値がある。設計思想を学ぶだけで十分元が取れそうだ。

著者プロフィール:深津貴之

「TiltShift Generator」「ToyCamera」などの独創的なiPhoneアプリを次々と世に送り出し、2009年9月には自身の会社である「Art & Mobile」を立ち上げた気鋭のクリエイター。現在はiPhoneアプリの収入のみで生計を立てているが、本人は「flash interactive designer」としてFlashへの惜しみない愛を公言している。Twitter IDはfladdict。筆者への質問はTwitterでお気軽に。


ベストな意思決定を行うために必要なのは、世の中の潮流をしっかりと見極めることである。評論家が決して口にすることがない現実を、ITmediaが認めた第一人者たちが語る「賢者の意志決定」はこちら。


本稿は、深津氏のブログfladdictに掲載されたエントリ「Nexus Oneを入手したので、とりあえず分析」の内容を再構成したものです。
Photo contributed by ToastyKenand Mat Honan


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