サービスマネジメントの新しい「鼓動」

「もし転職しても、Tivoliに頼る」――ピッツバーグ大学医療センターの証言IBM Pulse 2010 Report

「ISM(統合されたサービスマネジメント)なんて言ったって、そううまくは行かないんじゃないの?」――このような聴衆内の“懐疑派”に対しIBMが提示したのは、企業や行政、そして医療機関による各種証言である。

» 2010年02月25日 08時00分 公開
[石森将文,ITmedia]

Integrated Service Managementに対する“懐疑派”を説得できるか?

 Pulse2010も2日目――IBMのミドルウェア担当シニアバイスプレジデント ロバート・ルブラン氏は、前日のゼネラルセッションで示された“Integrated Service Management(以下、ISM)”について「聴衆の皆さんの中には、机上の空論だと、あるいは“そんなにうまいことやっている企業なんて、ないよ”と感じた人もいるのではないか」と自身のスピーチで切り出した。

 ルブラン氏が“懐疑派”の聴衆を説得するために用意した手法は、実際のユーザー企業によるパネルディスカッションである。


 集ったのは、Unilever(ユニリーバ)のITサービス担当バイスプレジデント Paulo de sa氏、ピッツバーグ大学医療センター(UPMC)のバイスプレジデント Paul Sikora氏、オーストラリアの金融機関Bendigo & Adelaide Bankでゼネラルマネジャーを務めるGary Doig氏、Region of Southern Denmark(デンマークの行政区)でCIOの地位にあるNils Lau Frederiksen氏、そして米国大手金融機関State Streetのエグゼクティブバイスプレジデント、Madge Meyer氏だ。

写真向かって右から、Paulo de sa氏、Paul Sikora氏、Gary Doig氏、Nils Lau Frederiksen氏、Madge Meyer氏。最も左が、司会役のルブラン氏 写真向かって右から、Paulo de sa氏、Paul Sikora氏、Gary Doig氏、Nils Lau Frederiksen氏、Madge Meyer氏。最も左が、司会役のルブラン氏

 Gary Doig氏とMadge Meyer氏は、「ITインフラの刷新には、ビジネスラインのスタッフと、テクノロジーラインのスタッフが、強調しあうことが重要」という視点で一致しているようだ。特にMadge Meyer氏は、「ITインフラが、利益を生み出さないただのコストセンターとして認識される向きもあり、残念」と明かす(国は違えど、情報システム部門の抱える悩みには共通する面があるようだ……)。

 Madge Meyer氏は自身の動きに制約がある中、一度は問題解決のためにポーランドにITオペレーションのオフショアを設けようと試みた。「だけれど、スタッフのトレーニングや、現地のインフラの問題から、現実的ではなかった」と振り返る。

 だが彼女は「やはり目先のことを見るだけでは、明日以降の未来に対応できない」と考え、ほかの経営陣を説得し、ISMの枠組みで再プラン。コストを許容範囲に抑えつつ国内にデータセンターを設け、基盤のモダナイズを成し遂げたと説明する。

 Gary Doig氏も、「情報システム部門が果たしている役割を、ビズネス部門の業務にマッピングし、可視化することで、ビジネス部門との相互理解が深まった」と話す。結果として同社の業務から、無駄と思われるスタッフシフトを削減でき、コアコンピタンスへの集中が図られたという。

 集中、という成果は、ユニリーバにおいても見られたようだ。Paulo de sa氏は、アジャイルなシステムにするという目的から、基盤の複雑性を排除し、“中央集権的”なシステムとサービスデリバリを目指し、そして達成した。これが、ここ数年の成果であり、サービスの稼働率、キャパシティ、資産状況などを一元的に可視化できている。リスクの発生ポイントが減少したため、そもそものサービスレベルが高まり、障害発生率も激減した」と紹介する。

「転職して、ITインフラを刷新しろと言われたら、やはりISMを使う」

 ここでNils Lau Frederiksen氏は「例を挙げるとデンマークでは、医療機関のIT化が非常に進んでいる。カルテを始め書類もデータに移行し、紙を使う頻度が激減した」と指摘する。「それだけに、ITインフラへの依存度が高く、信頼性が求められる。しかしわたしが堪能するデータセンターは、当初の2つから、23にまで増大した。これらのマネジメントは、Tivoli、そしてISMの枠組みがなければ難しかっただろう」とNils Lau Frederiksen氏は振り返る。

 大規模な医療機関であるUPMCにおいても、「特に救急外来や手術室には、24時間365日の稼働が求められ、かつITインフラのパフォーマンスも常に高くなければならない。それなのに人員は頭打ちで、コストの増額も難しい」のが従来の状況だったと、Paul Sikora氏は説明する。

 だが「5年前からIBMとのパートナーシップによる取り組みを開始した。その結果、従業員を3万人から5万人に、クライアントPC数は2万2000台から5万台に、そしてもちろんデータセンターの規模も拡大したが、TCOは2%減、消費電力も従来より削減という成果を出せた」という(ここでUPMCの取り組みに会場から拍手)。「もちろんIBMのミドルウェア、ハードウェア、そしてISMの成果だ」とPaul Sikora氏は評価する。

 同氏は「いまの職場を辞めるつもりはないけれど」と前置きした上で、「もし違い職場で、同じ課題を抱えたら、同じ手法で解決するよ。Tivoli、そしてISM抜きにITインフラを管理するなんて、考えられないからね」と話す。

“Smarter City”の取り組み――チェサピーク市

チェサピーク市の“Smarter City”化への取り組みを担当するマイクさん。公務員としての職歴は消防士に始まり、公安担当となり、その後現職だという チェサピーク市の“Smarter City”化への取り組みを担当するマイクさん。公務員としての職歴は消防士に始まり、公安担当となり、その後現職だという

 場所を変えて、会場内のプレスルームでは“ISMの伝道師”としてバージニア州チェサピーク市の担当者が、自身の“Smarter City”実現に再するTivoli、ISMの効果を語った。同市では、公共事業や公共インフラのあらゆる資産を対象に統合管理していく契約を、IBMと締結している(ちなみにチェサピーク市の人口規模は約22万人程度と紹介された)。

 説明によると、前日のゼネラルセッションで紹介された「スマートマンホール」のみならず、電気、ガス、水道管、消防車、公共機関庁舎、各種メーター……などがMaximo上で管理されているという。説明に当たったチェサピーク市の担当者は、「従来はExcelなどで台帳管理しており、何がどこにあるかも把握しづらい状態だった」と振り返る。

 結果として、CO2など各種環境影響物質の発生や、チェサピーク湾に流入する排水量を抑制でき、州や連邦の(排出にかかわる)法規制をクリアできた。また、非ITインフラ維持を担うフィールドスタッフの配置最適化も果たされたという。

 チェサピーク市の担当者は、「コストは120万ドル。これは5年で回収される見込みが立っている」と話し、「市民にとって、行政のインフラがきちんと運営されることが重要なのだから、古い方法に固執する必要はない。とても現実的、効果的な取り組みだった」と評価する。

 併せて同市では、今回の取り組みのプロトコルをほかの市や州、そして連符政府と共有する取り組みを進めるという。また電力会社との間で、資産データベースの結合も検討中とのこと。「行政区をまたがって、GIS(地理情報システム)上に非IT資産をマッピングできれば、管理効率がさらに上がる。ISMの理念に基づき、行政の縦割りサイロを壊したい」と話す。

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