ソフトウェアデリバリーにおけるサプライチェーンを完成させるIBM RationalIBM Rational Innovate 2010 Report

IBM Rationalは、今日のソフトウェアが“見えない糸”と化して「Systems of Systems」を構築している現状を踏まえ、それをどうスマートに創り上げるかにフォーカスしている。ソフトウェアの開発という視点を超え、ソフトウェアのデリバリーという視点で顧客に価値を継続的に提供するIBM Rationalは、ソフトウェアデリバリーにおけるSAP的なポジションを狙う。

» 2010年06月09日 12時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 米国オーランドで6月6日から開催中の「IBM Rational Innovate 2010」。2年前は「IBM Rational Software Development Conference」という名称を用いていた同カンファレンスだが、2009年に「IBM Rational Software Conference」と改称し、さらに今回は「Innovate」をメインに掲げている。これは、Rational、あるいはIBMが向かう方向性を如実に示すもので、Rationalは単なるソフトウェア開発にフォーカスしているのではなく、ビジネスと密に結びついたシステムエンジニアリングのあり方を考えている様子がうかがえる。

 初日の基調講演で、IBM Rationalのワールドワイド・ストテジー&マーケティングの責任者であるスコット・ヘブナー氏は、1兆個ものプロダクトが相互接続され、大規模かつ並行な分散システムを形成している今日の世界は、機能化、インテリジェント化が進んでおり、ソフトウェアが“見えない糸”と化してそれらを結合しているのだと説明した。

この日のテーマとして挙げられたのは大きく3点。本稿では取り上げていないが、「Secure by Design」はソフトウェアデリバリーのエンドツーエンドでセキュリティをどう担保するかを示したもの

 これを「地球がスマートになっている」という言葉で表現するヘブナー氏。ビジネスにおけるソフトウェアの重要性は揺るぎないものになったと断言し、スマート化していく世界でビジネスを成功に導くには、エレキ(電気設計)やメカ(機構部品)にソフトウェアの価値をどう組み込んでいくかを考える必要があり、なおかつ、コストとリスクをコントロールしながらイノベーションを実現することが重要であると話す。

 「すべてのビジネスがソフトウェアビジネスであり、ソフトウェアこそがビジネス上最も重要なアセットである」(ヘブナー氏)

 ビジネスの成功はソフトウェアに強く依存していることを「ソフトウェア駆動のイノベーションの時代」であると話すヘブナー氏。そこでは、ソフトウェアエンジニアリングではなくシステムエンジニアリングの観点を持つ必要があると説明する。

 ここでいう「システム」とは例えば企業の情報システムといったような狭義の意味で用いているのではない。上述した「1兆個ものプロダクトが相互接続された、大規模かつ並行な分散システム」、IBMの言葉で言えば「Systems of Systems」を指しており、そこでイノベーションを起こしていく必要があるという。そして、ポイントとなるのは、チームの作業を最適化し共通の目的を達成するための「コラボレーション」、ワークフローを統合しコントロールと効率化を向上させるための「自動化」、リアルタイムな進捗を計測し継続的な改善を行うための「レポート」であり、先進的な取り組みとしてUPSの事例が紹介された。

Systems of Systemsをどうスマートに創り上げるか

「ソフトウェアエンジニアリングのパラダイムシフトが起こっている」とサバー氏

 ヘブナー氏の後に壇上に上がったRational部門のゼネラルマネジャー、ダニー・サバー氏は、スマート化する世界では、ソフトウェアの開発という視点を超え、ソフトウェアのデリバリーという視点で顧客に価値を継続的に提供していくことが必要だと説明した。これはビジネス上のリスクや利益に基づいた経済的なガバナンス、あるいはビジネス価値や成果に重きを置くべきであると話す。これらを考えるには、共通のプラットフォーム上で統合されたプロセスやツールが必要であるとし、Rational製品群がそれらを担うのだと強調した。

 サバー氏は、ヘルスケア業界、とりわけ救急システムを例に挙げながら、相互依存性のあるシステムにおいて考えるべきポイントを端的に説明した。同氏は、米国における死因のトップが心臓病であるとし、ペースメーカーが高度化することで例えばリモートモニタリングなどの機能が備わったとする一方で、より重要なのは、ペースメーカーのGPS情報から救急車を必要に応じて呼ぶことで誤り通報を防ぎ、さらに救急車のルートを最適化することで現場への到着を早めることが生存率を高めるのだと説明する。これは、ソフトウェアによって結ばれた相互依存性のあるシステムをマクロで考え、それをどう最適化するかを考える必要があるということを意味する。これこそがSystems of Systemsであり、どの業界でもこれを念頭に置いた上で、それをどうスマートに創り上げるかが肝要なのだと述べた。

 「複雑性がここまで高度化したことは過去にない。ソフトウェアエンジニアリングのパラダイムシフトが起こっていると言い換えてもよい。われわれはよりよいアプローチでそこにイノベーションを起こしていきたいと考えている。イノベーションはあればよいものではなく、なければならないものだ」(サバー氏)

 しかし一方で、イノベーションは効率性、品質とはまったく別の次元で考えなければならず、かつ測定できるものであるべきだとサバー氏。ソフトウェアのエコノメトリックス(計量経済学)について言及し、ステークホルダーのデータを用いたNPV(正味現在価値)を考えながらイノベーションを数値化していく必要性を訴えた。

 「プロセスエンジニアリングというメトリクスを超えなければならない」(サバー氏)

トークンベースのライセンス導入へ

 初日の基調講演で目を引いたのは、柔軟なライセンス形態が発表された点。具体的には、トークンベースのライセンス形態が導入されることが明らかとなった。

 これに合わせる形で、製品の提供形態にも変化の兆しがみられる。「Workbench」という概念で説明されていたが、要するに、製品を機能レベルに分解し、ロールベースごとのオファリングとして提供する方向性に向かうようだ。例として、ソフトウェア開発の基盤となるコラボレーションツール「Rational Team Concert」、テスト管理ツール「Rational Quality Manager」、要求管理ツール「Rational DOORS」といったソフトウェアデリバリーに必要な最小セットから、必要な機能を選択してトークンベースのライセンシングで利用可能にするようなイメージが示された。将来的にはRational製品のほとんどを機能レベルに分解し、このモデルで提供するつもりであるという。

 もちろん、機能ごとに選択できるといっても、そのガイダンスとなるものがなければ自由度が高すぎるともいえる。そこで、これまでIBMが培ってきたノウハウを生かし、ロールベースで必要な機能をプリセールスの段階で提案するような仕組みが用意されるとみられる。

トークンベースのライセンス形態も導入された。既存のパッケージ販売も継続される

 Jazzの発表から数年が経ち、ソフトウェアデリバリーのプラットフォームにまで成長したRationalだが、ここにきて、その狙いがソフトウェアデリバリーにおけるサプライチェーンであることがはっきりと見えてきた。多少強引な物言いをすれば、ソフトウェアデリバリーにおけるSAP的なポジションを確立しようとしているのが現在のRationalだ。産業ごとにソフトウェアデリバリーの垂直統合の仕組みを作り上げることができるか注目したい。

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