Swarm Computing:McAfee買収の裏にあるIntelの新しい戦略オルタナティブ・ブロガーの視点

IntelはMcAfee買収によってどのような世界を築こうとしているのだろうか――。オルタナ・ブロガーの鈴木逸平氏は、ユビキタスコンピューティングの観点からIntelの狙いを解き明かそうとしている。

» 2010年09月10日 16時08分 公開
[鈴木逸平,ITmedia]

(このコンテンツはオルタナティブ・ブログ「鈴木いっぺい の 北米IT事情: 雲の向こうに何が見えるか?」からの転載です。エントリーはこちら。)

 Intelが先ごろ発表したMcAfeeの買収を通して、Intelが狙っている次世代のコンピューティング環境についての分析がさまざまなところで行われている。

 Infobloxのグレッグ・ネス氏によると、「Swarm Computing」という新しい市場の登場を提唱しており、今回のIntelにいるMcAfee買収がこの新たな市場に対するアプローチであると予測している。

 Swarm Computingは、最近話題になっている「Ambient Computing」「Pervasive Computing」などといったキーワードと同様に、元々の源流を「Ubiquitous Computing」に持つ。Ubiquitous Computingは、Xerox PARC研究所の当時Chief Technologistであったマーク・ウェイザー氏が1980年代から1990年代にかけて提唱した言葉で、MITの「Oxygen Project」、「MEMSのSmart Matter Project」など数多くの文献が登場し、一時期話題になった。基本的には、多くのコンピューティングデバイスに囲まれた状況の中で、人間がどのようにそれを利用するかというコンセプトである。

 Intelがこの動きに向かおうとしている根拠は、Intelの製造するCPUの市場が従来のPC市場から、急激にネットワークデバイス(スマートフォン、タブレットなど)中心の時代に変遷しているということである。

 ネットワークデバイスの数は、既にコンピュータの数を超えていると言われる。毎年増えるネットワークデバイスの数は、1999年に存在していたすべてのデバイスの数を超えている。これらのデバイスのCPUを製造するIntelとしては、この事実に注目しないはずがないわけである。

 すなわち、今日の「ネットワーク」と呼ばれるものは、PCのネットワークではなく、もはやモバイルデバイスのネットワークであるということである。

"More than 1 billion mobile devices will access the Internet in the New Year, research firm International Data Corp. (IDC: 33.83 +0.03 +0.09%) says. That's catching up to the 1.3 billion users that use a PC to go online, and the rate of growth for mobile users is 2.5 times the growth rate for PC use."

 IDCの予測によると、来年頭には10億台のモバイルデバイスが市場に存在し、オンライン接続しているPCの総数である13億台に迫る勢いである。モバイルデバイスの伸び率は、PCの伸び率の2.5倍であり、逆転するのは時間の問題である。

 これだけの数のネットワークデバイスが接続し、相互通信が行われる環境において、Intelの最大の関心は、セキュリティをいかにハードウェアアーキテクチャレベルで確保するかということである。当然ネットワーク上のアプリケーションやミドルウェアのレイヤでセキュリティを確保することも発想としてあるが、果たしてこれだけ分散化した環境で、上位のソフトウェアが下位のハードウェア、ネットワーク機器環境の通信プロトコルまでをカバーできるセキュリティを確保することができるという疑問が出てくる。

 Intelのコンセプトは、ハードウェア、それもCPUレベルのプロセス間通信のレイヤで強固なセキュリティを確保して、はじめて上位レイヤでのセキュリティ実装が可能になるという考え方にあるのではないかと類推する。

 そのハードウェアレベルでのセキュリティプロトコルに関して、今回の買収で独占的な仕様を作り上げ、市場に一挙に投入することができるのであれば、非常に戦略的な買収であるといえる。AMDなどはどういう動きを取るのか、非常に興味が湧く。

 個人的には、クラウドコンピューティングの新たな時代に向けたアーキテクチャの登場と解釈しようとしている。VMwareなどの仮想化技術をさらに超えた真の「Ubiquitousクラウド」という感じだろうか。スマートグリッド市場で大きく伸びているAMI技術と非常に近いアプローチであるという点も興味深い。

企業向け情報を集約した「ITmedia エンタープライズ」も併せてチェック

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ