ユナイテッド航空がたどるIT変革の旅28%のコスト削減

ユナイテッド航空のIT部門変革に取り組んだシルビア・プリッケル氏は「ビジネス部門とIT部門のギャップを埋める取り組みから始めよう」と指摘する。

» 2010年09月21日 13時05分 公開
[石森将文,ITmedia]

 「景況の悪化により、企業のIT投資意欲が停滞している」――このような表現が枕詞として使われるようになって、どれほど経つだろうか。仮に2008年9月のいわゆるリーマンショックを基点とするならば、早2年が経過したことになる(もっともそれ以前から、国内の報道では“不景気”という言葉が踊っていたわけだが)。

 とはいえ企業活動を継続するには、投資をゼロにするわけにはいかない。それは言うまでもなく、経済状況にかかわらず機材は減価償却やリース切れを迎えるし、ビジネス環境の変化に対応するには組織やIT基盤を改修する必要があるからだ。

 ではその――企業にとっては限られた貴重な――投資の効果をどのように最大化すべきか? それがHP Softwareのテーマであるようだ。


 米Hewlett-Packard(以下、HP)が持つソフトウェア製品(日本風に言うと、統合運用管理ツールに相当する)の年次カンファレンスHP Software Universe 2010では、企業IT基盤がクラウドへ移行しつつある現状とそれにより生じている新たな課題、そしてその解決について、“Maximize investment value(投資価値の最大化)”という視点からHPの姿勢が示された。複雑化し、かつ構成も動的に変化するクラウド時代のIT基盤にサービスをマッチングすることが情報システム部門には求められており、そのための具体的なソリューションとしてHPが示したのが、例えば「Business Service Management 9(BSM9)」のような製品であった。

 国内でのHP Software Universe開催に合わせ来日したHP Softwareのゼネラルマネジャー、ロビン・プロヒット氏はHP Softwareが描く未来を端的に示す言葉として、「Unified Operation」を挙げた。この概念は、物理と仮想、データセンターの内と外、ハードウェアとソフトウェア、そしてITとサービスといった対になる要素を、1つの(クラウド)ソリューションとして統合運用できる状態を指すものだ。

 プロヒット氏は「米国では既に、多くのカスタマーがHP Softwareにより成功を収めています」と指摘する。そのうちの1社であるユナイテッド航空で、情報サービス部門のサービスマネジメント担当ディレクターを務めるシルビア・プリッケル氏は、「わたしがユナイテッド航空に着任したのは2006年。その際、“ユナイテッド航空ほど名の知れた企業でも、これほどまでにITを組織化できていないものか”と驚きました」と当時を振り返る。

ユナイテッド航空が辿った「IT変革の旅」

ユナイテッド航空のシルビア・プリッケル サービスマネジメント担当ディレクター

 プリッケル氏は25年間に渡り、製造、金融、公共などの業種でIT関連業務に従事してきた。サービスマネジメントの認定や、シックスシグマのブラックベルトを有することから、主にITIL導入やサービスデスク、ポートフォリオ管理に実績を持つ。『ISO20000』『「ITマネジメントのためのシックスシグマ』などの出版物も手掛けている(共著)。

 結論から言うとユナイテッド航空は、プリッケル氏が主導した取り組みにより、ITサービス部門のオペレーションコストを28%削減できたという。この数字は2008年度と2010年度の比較である。プリッケル氏は就任して最初の2年間は、「社内各部門に対するチェンジマネジメントを行いました。ITサービスの改革の必要性についてマーケティングし、コミュニケーションし、エデュケーションすることに専念したのです」と話す。

 プリッケル氏は特に、コンセンサスを得ることの重要性を強調する。「既存のビジネスプロセスを変えることには痛みが伴うし、時間も、コストも掛かります。現場の同意だけでなく、経営陣の理解も得なければなりません。そもそも、変革のプロセスというものは最後まで回しきるまで本当の効果や進化が見えてこないものです。途中で現場が不安になったり、目的を見失ったりしないよう、事前に取り組みの“ブループリント”を示し、合意を得ることが非常に大切になります」(プリッケル氏)

 まずはチェンジマネジメントに取り組み合意を得たプリッケル氏だが、その後は具体的なITのソリューションを選定し、実装に落とし込む必要がある。ITサービスマネジメントを担うソリューションを有するベンダーは複数あり、最終的には5つのベンダーに絞り、選定を行った。ここで結果として残ったのは、HPだ。

 「実際には、個々のプロダクトで見ると、ほかのベンダーにも優れた要素はありました」とプリッケル氏は話す。だが「強力なストラテジーのもとに、各ソリューションが統合されているのはHPでした」と振り返る。「これは具体的に言うと、HPの製品ポートフォリオがカバーしている領域が広い、ということになります。またEDSによるシステムコンサルティングにも助けられました」(プリッケル氏)

プリッケル氏の取り組みが生んだコスト削減効果(クリックで拡大)

ビジネスとITのギャップを埋める、短期的な取り組みがお勧め

 プリッケル氏は現在、ユナイテッド航空が保有するハードウェア資産とソフトウェア資産をすべて洗い出し、それをITサービスとマッピングする取り組みを進めている。これも具体的にはHP Softwareがラインアップする資産管理製品HP Discover and Dependency Mapping Inventory softwareを利用しているという。プリッケル氏は「HPはユナイテッド航空のビジョンを共有してくれており、強力なパートナーです」と話すが、あえて要望するならば、「HPが所有する各製品を統合するには、ユナイテッド航空がインタフェースを開発しなければならないことも多いのです。この点が改善されれば、時間とコストをより削減できますね」と笑う。

 IT部門を変革する必要性を感じながらも、どうすべきか答えを見出せない日本企業にアドバイスはあるだろうか? と話題を振ってみた。「得てして、ビジネス側とIT側は利害が対立し、ギャップが生まれるものです。そのギャップによって、最も“痛み”が生じている部分を、まずは改善しましょう。そしてあまり大きな取り組みではなく短期的なものとし、例えば6カ月でビジネス側もIT側にも効果が見えるような規模で進めると良いでしょう」(プリッケル氏)

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