ランタイム サービスモデルはCloud-Readyを加速するか?HP Software Universe 2010 Report

HPはそのプライベートカンファレンスにおいて、サービスマネジメントツールの新版を発表。既存IT環境の“Cloud-Ready”化を図るとした。日本における“対JP1”戦略についても聞いた。

» 2010年06月18日 08時00分 公開
[石森将文,ITmedia]

 「デジタルデータは18カ月ごとに倍増するにもかかわらず、それらに対するセキュリティ/コンプライアンスや可用性、パフォーマンスに責任を負わねばならない。同時にシステムが仮想化されることで発生する月間900もの構成変更に対処しつつ、エンドユーザーからのクレームやトラブルシュートもこなすことになる」――これは米ヒューレット・パッカード(以下、HP)が「HP Software Universe 2010」で指摘した、現在の情報システム部門の実態と悩みだ。

 同カンファレンスは6月15日(現地時間)に開幕。米国ワシントンD.C.の会場に集った約2000人の聴衆が、企業ITを取り巻くサービスマネジメントの状況と、それに対するHPの解答(ソリューション)に耳を傾けた。

 本題に入る前に、簡単におさらいをしておこう。HP Softwareは、ネットワーク管理/システム管理を担うHPのソフトウェアブランド。従来“HP OpenView”という名称で展開されていたが、2007年以降、ブランドが変更され、現在に至る。競合製品としてはIBMのTivoli Software、日本市場では日立製作所(以下、日立)のJP1が挙げられるだろう。

 上述した課題にHP Softwareとしてはどのように答えるのか? HP Software Universe 2010で提示されたのは、オンプレミスとクラウド、また同じクラウドでもパブリックとプライベートを包含しつつ、シンプルな運用環境の構築を図るサービスマネジメント製品の新版「Business Service Management 9(BSM9)」のリリースであった。

物理と仮想を統合した自動管理で“Cloud-Ready”を図る

BSM9を各国報道陣に紹介する、ロビン・プロヒット HP Software ゼネラルマネジャー

 BSM9はその発表の場において、Automated、Virtualized、そしてCollaborativeなオペレーション環境をもたらす “Cloud-Ready”なサービスマネジメントツールと位置付けられた。またBSM9は、物理環境と仮想環境をITサービスの視点から統合的に監視できるモニタリングビュー(Business Availability Center 9.0)を有する。

 とはいえ、“物理と仮想の統合管理”や“自動化されたサービスマネジメント”などという要素は、先に挙げたTivoliやJP1なども、その特徴として挙げるところだ。今回、BSM9ならではの利点としてHPが強調していたのは、「Run-Time Service Model」というリアルタイム(を目指した)構成管理の仕組みである。

 HPは、現在ユーザー環境にあるx86サーバのうち、既に28%が仮想環境で稼働していると主張する。言うまでもなくこの数字は上昇が見込まれ、2012年には48%に達すると予測しているという。

 もちろん、仮想化そのものにはメリットが大きい(だからこそユーザーに支持され、導入が進む)。だがサービスマネジメントの視点で見ると、少し困った事態も起こる。VMwareのVMotionや、Hyper-V2.0のLive Migrationといった機能を使って仮想マシンを動的に構成変更するようになると、その上で稼働している業務やサービスとのマッピング(サービスマップの作成と変更)が追いつかないケースが考えられるのだ。

 このような状況は、極端な話「その物理サーバ上でどのようなアプリケーションやサービスが稼働しているか?」について“付箋を貼ったりする”ことで可視化することもあった従来の非仮想化環境では、考えられないことであった。だが放置していては、日々の運用の足かせとなるし、障害発生時の原因特定もままならない。ひいては、せっかく仮想化したのにTCOが増大したり(HPでは無対策の場合、1インシデント当たり平均80ドル掛かると試算している)、MTTR(平均修復時間)が長くなって、サービスレベルが落ちたりしてしまう。本末転倒である。

 だがBSM9環境下では、従来1週間程度のマニュアル作業を要していたサービスマップの作成と変更を自動化することで、作成は1時間、変更なら“ほぼリアルタイム(HPの表現ではNear real time)”にまでスピードアップできるという。実際、ボーイング社では、Run-Time Service Modelの適用により、年間約100万ドルの運用コスト削減、低下していた可用性をSLA比99.8%まで回復、障害箇所の特定時間を平均1時間から平均10分間に短縮、MTTRを10時間から1時間に削減、といった効果が見込まれているという。

Run-Time Service Modelの枠組み

対JP1戦略は?

 なお日本では、企業情報システムの運用管理やサービスマネジメントという分野において日立のJP1が地歩を固めており、グローバルな販売戦略がそのまま通用するとは限らない。日本におけるHP Softwareのポジショニングについて、APJ(アジア・パシフィック地域と日本)のマーケティングを統括するダリル・ディケンズ氏は次のように話す。

 「調査会社IDCのレポートによると、HPのソフトウェアビジネスはAPJ全体で20億ドル、うち14億ドルを日本が占めており、大変重要な市場だと認識している。日本のデータセンターには、(日本の)ローカルベンダーのサービスマネジメントツールが入っていることが多いが、機材のリプレースなどのタイミングを狙い、HP Softwareの浸透を図る。確かにJP1は良いコンペティターであり、稼働監視や資産管理という面で優れたところがある。しかしサービスマネジメントという点では、HP Softwareに一日の長があると考えている」(ディケンズ氏)

 実際日本では、“JP1の稼働監視情報を、HP SoftwareのService Managerで吸い上げ、サービスマネジメントのサイクルを回す”といった複合的な導入(競合というより連携)を図るケースがあるといい、国内システムインテグレーターのアシストなどが手掛けていると紹介された。


 BSM9の発売時期やライセンス体系について会期中は触れられなかった。だがSoftware Universe会場のHPスタッフによると「7月1日に米国で発売予定」とのこと。なお日本での発表、発売についてもほぼ確実と思われるが、その時期について公式なコメントは得られなかった。

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