米国のIFRS対応が日本に影響を与えるIFRS of the day

今回は、IFRSと米国会計基準のコンバージェンスプロジェクトから、米国でのIFRSをめぐる動きを考えます。

» 2010年11月02日 08時00分 公開
[野口由美子(イージフ),ITmedia]

 米国は、IFRSを導入するか否かを、2011年に決定する予定です。この決定は日本の今後の対応にも影響すると考えられ、非常に注目されています(日本のIFRSに関する状況はこちらの記事を参考にしてください)。今回は、最近の米国でのIFRSをめぐる動きについて考えたいと思います。

 現在、米国会計基準とIFRSは、米国財務会計基準審議会(FASB)と国際会計基準審議会(IASB)がコンバージェンスプロジェクトを進めています。コンバージェンスが達成されることは、米国でのIFRS導入の条件となっています。IASBは、国際会計基準の発展には米国の参加が不可欠であると考えており、コンバージェンスプロジェクトは必ず達成させなくてはならないところです。

 現在のIFRSは、世界の多くの国で採用されるようになったとはいえ、まだまだEU諸国の影響を多く受けています。例えば、2008年にIASBが正式な基準書設定の手続をとばして、突然基準書を改訂したことがありました。金融商品についての改訂で、売買目的で保有している金融資産について短期で売買する意図がなくなったものは、分類を変更して時価評価をしなくてもよいという内容でした。世界的な金融危機を受けて、時価評価による多額の損失計上を回避できるという措置だったわけですが、この改訂はEUの強い圧力によるものだったと言われています。

 特定の国が強い影響力を持っている状況では、高品質で多くの国で受け入れられる会計基準にはなれません。IASBとしてもこのような改訂はやりたくないわけです。EU以外の力のある国がIFRSを導入し、影響力が分散されることが期待されています。

 ところが、米国基準とのコンバージェンスプロジェクトは困難が続いています。米国基準とIFRSの間に考え方に違いがあるからです。プロジェクトのスケジュールが遅れがちで、なかなか双方が合意に達することが難しいようです。プロジェクトのスケジュールは見直しがなされ、優先順位を付けた上で対応していますが、2011年という最終ゴールは変わっていません。2011年まで、IFRSは重要な改訂が続くことになります。

 IFRSをめぐっては、各国のさまざまな利害関係者が議論を戦わせています。理論的な正しさも追求されるべきですが、すべてがIFRSの原理原則に従っているとは限りませんし、そもそも原理原則自体さえ修正されていく可能性があると思います。今がIFRSの将来を決める非常に重要な時期なのです。


当記事はブログ「IFRS of the day」から一部編集の上、転載したものです。エントリーはこちら

筆者:野口由美子

公認会計士、イージフ取締役。国際基督教大学教養学部社会科学科卒業。朝日監査法人(現あずさ監査法人)を経て、投資会社にて事業再生事業、M&Aなどに携わる。2006年より現職。決算早期化、国際会計基準対応支援プロジェクトなど、さまざまなコンサルティング分野で活躍。著書に『現場で使えるIFRS導入の実務』(日本実業出版社)。


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