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» 2010年10月26日 08時00分 公開

IFRS of the day:日本はIFRSを適用しない、という期待

公認会計士の野口由美子さんが読み解く国際会計基準(IFRS)。今回はIFRSをめぐる日本の受け入れ状況について考えます。

[野口由美子(イージフ),ITmedia]

 日本でもIFRSを扱った記事や書籍、セミナーなどたくさんあり、多くの方がそれらでよく勉強されているという印象を受けます。知識が増えた分、IFRSに対していろいろな不安を抱いている方もたくさんいるようです。今回はそれら疑問について考えてみたいと思います。

疑問1 日本は結局IFRSを導入しないのではないか

 IFRSを導入するメリットが感じられない企業の方に多いようです。確かに資金調達や事業展開など海外も視野に入れている企業にとっては、IFRSはメリットがありますが、そうでなければ、コストがかかる話にしか思えないのかもしれません。また、アメリカが本当にIFRSを導入するのか、というところに疑問を持たれていることとも関係していると思います。

 もう既にご存知のことと思いますが、現在IFRSに収れん、または適用を行なっていない国は、アフリカ地域を除くと、アメリカと日本ぐらいです。日本だけが今後世界の中で孤立して独自の会計基準を適用していくという状況は考えにくいのではないでしょうか。

 アメリカについては、SEC(証券取引委員会)がアメリカでのIFRS適用は2015年以降とする考えを表明しており、これがアメリカでの「後退」ととらえられているようです。しかし実際には2015年をめどにIFRSを導入する意欲が政権交代後に示されていると理解すべきではないでしょうか。IFRSとUS GAAP(米国会計基準)のコンバージェンスプロジェクトは、アメリカが導入の判断を行う2011年に向けて現在進められています。コンバージェンスプロジェクトがどれだけの成果を上げられるかということが重要になってくると思いますが、アメリカは着実に動いてきていると考えるべきです。

疑問2 IFRSの日本向け解釈指針が作成されるのではないか

 原則主義のIFRSは解釈が難しく、しかも日本の慣行に特別配慮しているわけではないので適用には判断が必要となります。日本の会計基準のような細則や実務指針がないのです。そこで解釈指針のようなものが日本向けにできるのではないか、と期待されている方がいらっしゃいます。

 現状では金融庁もASBJ(企業会計基準委員会)も公認会計士協会も、あまりそのような指針を作ることは考えていないようです。そもそもIASB(国際会計基準審議会)がそのような国別の指針などを作ることに反対していて、そのような指針を各国で作るとたくさんのIFRSが存在することになってしまうと懸念しているのです。日本に対しても指針を作らないことを勧めています。日本としては、いまさらこの路線から外れたくないのではないかと思います。

 ちなみに、既に日本ではIFRSが法的に認めているわけですが、その中でもカーブアウトを行なっていません。カーブアウトというのはIFRSの一部を採用しないことで、EUなどでは行なわれています。EUの各国ではIFRSの適用には承認手続が必要でその承認が通っていないものは適用されていません。EUなどでさえ、カーブアウトを行なっている中で、日本はあえてそのようなことはせず、full IFRSを適用しようとしているわけです。ここで日本版のIFRS解釈指針を出してしまえば、それは日本版IFRSであって、真のfull IFRSではなくなってしまうのです。

疑問3 それではどうしたらいいのか

 日本がIFRS適用をするのは確実で、適用を助けてくれる指針も出ないであろうという状況で、日本企業はどのように対応していけばいいのでしょうか。

 まずはIFRSという会計基準に「慣れる」べきです。IFRSの知識をすでにつけていらっしゃる方が多いので、それを実践に移すことです。自社としてはどういう適用をするべきなのか、実際に会計方針を考えてみることが必要なのではないでしょうか。

 一般的にIFRSと自社の会計処理を比較する差異分析を最初に行ないます。ここで会計基準の項目を羅列するだけでなく、どのようにその規定を判断するのかというところまで考えなくては、本当の意味での分析はできません。そのような深いレベルでの分析を行なってみることが本当の意味でのIFRSの適用に必要です。

 IFRSを自社に適用すると何が問題になるのか、ということを具体的に考えるのが取り組みへの第一歩として重要です。


当記事はブログ「IFRS of the day」から一部編集の上、転載したものです。エントリーはこちら

筆者:野口由美子

公認会計士、イージフ取締役。国際基督教大学教養学部社会科学科卒業。朝日監査法人(現あずさ監査法人)を経て、投資会社にて事業再生事業、M&Aなどに携わる。2006年より現職。決算早期化、国際会計基準対応支援プロジェクトなど、さまざまなコンサルティング分野で活躍。著書に『現場で使えるIFRS導入の実務』(日本実業出版社)。


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