iDC事業を手掛けるビットアイルは、新しいデータセンター基盤の構築に際し「標準化と拡張性」にこだわったという。その背景には、クラウドに対する多様なユーザーニーズに応じたいという思いがあるようだ。
「所有から利用へ」という掛け声のもと、クラウドコンピューティングはITの利用モデルとして一般化しつつある。クラウドが市場に浸透する後押しとなったのは、GoogleやAmazonといったクラウドプレイヤーの華やかな取り組みだけでなく、ユーザー企業のIT環境を預かってきたデータセンター事業者の経営努力によるところも大きい。データの預け先が不安定では、安心してクラウドの世界に飛び込めないのだから、当然であろう。
もちろん、データセンター事業者にとってクラウドという潮流は、ビジネスチャンスでもある。企業が、これまでオンプレミス型で運用してきたIT基盤をクラウド化する際には、ホスティングやコロケーション、運用を含めたハウジング、そしてマネージドサービスといった選択肢をとることが多いからだ。
実際、IDC Japanが2010年10月19日に公表した国内データセンター向けサーバ市場予測では「2010年はプラス成長復帰、2009年〜2014年の年間平均成長率は2.6%」「2014年の市場規模は1169億円と予測、外部サービス利用企業の増加が市場拡大に寄与」とまとめられており、景気回復が遅れる中でも、データセンター事業者の投資意欲は衰えていないことが見て取れる。
データセンター事業を手掛けるビットアイル 事業推進部の高倉敏行部長は「これまでビットアイルのユーザー企業は、インターネットサービス事業者(例えばオンラインゲームなど)が多かった」とするが、「近年、クラウドの一般化により、非ITの一般事業会社が10%、システムインテグレーター(SIer)による利用が20%を占めるまでになった」と話す。ビットアイルのデータセンターを利用するSIerの先には、彼らの顧客である一般事業会社があると考えられ、ビットアイルのユーザーのうち30%ほどは、一般事業会社がクラウド基盤として同社のデータセンターを利用しているのだと考えられる。
ビットアイルでは「ノンコアの業務システムからクラウド化していき、段階的にITインフラのアウトソーシングを進めるというトレンドは、今後も続くだろう」(高倉氏)と予測している。このようなユーザー側のニーズに応えるためビットアイルでは、従来から持つサービスに加え、検証環境の提供、リソースレンタル、プライベートクラウドのマネージドサービスといったクラウド特化型のメニューを用意している(ビットアイルは「クラウドアイル」というブランドでサービスを展開している)。
2009年9月から約1年強にわたりサービス展開しているクラウドアイルだが、ゲストOS単位、専用サーバ単位でリソースを提供する「サーバオンデマンドサービス」を12月に強化することもあり、基盤そのものの刷新に乗り出したという(注:記事執筆後、サーバオンデマンドNEXTとして発表された)。
刷新の背景を高倉氏は、「自社のIT基盤をすべてクラウドから調達できるユーザーは、むしろ少ない。実際にはコロケーションなどと組み合わせ、ハイブリッドな環境を構築することが多い。そしてユーザーは、コロケーションとクラウドの割合も、ビジネスの状況に応じて変えたいはずだ。多くの選択肢を提示でき、かつその変更要請にも応じられるのが、ユーザーフレンドリーなデータセンター事業者だと考えている」と話す。
マーケティング本部 サービス開発部 部長代理の福澤克敏氏によると「実際にユーザーからは、コロケーションしていたデータをクラウドに移したいとか、クラウドに置いていたデータをコロケーションしたサーバに吸い上げたいといった要望がある」という。
確かにクラウドをITの消費(調達)モデルとして考える場合、必ずしも仮想化技術が主な要素となるわけではない。例えば「物理サーバも仮想サーバもすべてデータセンターに預けてしまい、その利用比率はビジネス状況に応じて動的に変更する。支払いは物理/仮想リソースを問わず月額料金として支払う。企業会計上の資産としては一切所有しない」というモデルも、ユーザー(特にビジネスラインの)にとっては十分に「クラウド」と言えよう。実際にビットアイルでは、「ユーザーが所有していたIT資産を買い取り、データセンターにコロケーションして、月額料金で提供する」というケースもあるという。
こういったニーズに対応していくには、標準化され、柔軟に拡張可能な基盤が必要だ。つまり、今回の刷新のコンセプトを端的に表すと、「スケーラブルなデータセンター基盤」となる。
新しいサーバオンデマンドサービスの基盤を構成する要素は、VMwareで仮想化したIAサーバと、FC接続されたSAN。一般的にはイーサネットのトラフィックをさばくNICと、FC用のHBAをそれぞれ用意し、2系統のネットワークでシステムを構成することが多い。だがこの構成では、基盤を拡張する際にLANとSANの構成がネックとなり、手間がかかってしまう。
そこでビットアイルでは、FCoE(Fibre Channel over Ethernet:FCとイーサネットを統合するプロトコル)に対応したブロケードのスイッチ「Brocade 8000」により、LANとSANを統合するというシステム構成を選択した。FCoEが比較的新しい技術であるということもあり、信頼性などの面からその採用に難色を示す向きもあったそうだが、「既に稼働検証も終盤に差し掛かり、性能、可用性ともに問題がないことを確認できている」とiDC本部 システム技術部 第二技術グループの中島秀平氏は話す。
言うまでもないことだが、サーバオンデマンドサービスの新基盤としてFCoEを採用したことで、アダプタ類やケーブルを大幅に簡素化できた。LANとSANを統合したネットワークビューももたらされた。これは運用面の効率化といえるが、それ以上に高倉氏は「物理サーバやストレージを増やしたり、仮想マシンを拡張・移動したりしやすくなった。これは本来の目的であった“ユーザーのニーズに柔軟に応じられるスケーラブルなデータセンター基盤”が実現できたということ」と評価しているという。
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