クラウドと向き合うための勘所――討論会から探るユーザーマインド

グローバルビジネスとクラウド――ユーザーとベンダーが実践すべきモデルクラウドと向き合うための勘所(2/2 ページ)

» 2011年02月21日 10時00分 公開
[合田雅人,ITmedia]
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 浅井氏や舘野氏が指摘したように、これからの日本企業のグローバル展開では、日本の本社が世界の拠点を統治する仕組みを強化するのではなく、各拠点が日本の本社と同じようなビジネスを実行できることが重要になる。本社は統治力を維持しつつ、拠点の自主性を引き出す役割も求められる。そのためには、IT環境を駆使できるかどうかが鍵になるだろう。

 グローバル企業が直面するIT環境の課題について、インプレスビジネスメディア ITLeaders 編集長の田口潤氏は次のように述べた。

 「本格的なグローバル時代は人材が大きく流動するもの。昨日まで日本で働いていた人が、明日からアジアで業務を行い、数カ月後には米国や欧州に異動するようなことが起きます。そのような異動があっても、日本は自社開発の業務システムで、米国はOracleのシステムで、欧州ではSAPのシステムでいったバラバラの状態では、社員は仕事ができません。拠点ごとに異なるシステムをどう統合するかが今後の大きな課題になるはずです。当然ながら、クラウドをどう活用すれば効率的に統合を進められるかというテーマも浮かび上がるでしょう」

 こうした背景を考えれば、グローバルビジネスでのクラウド活用はより高度なものになっていくだろう。日経BP コンピュータ・ネットワーク局 ネット事業プロデューサー 兼 日経コンピュータ編集プロデューサーの星野友彦氏は、グローバル化に伴うベンダーの状況を取り上げた。

 「海外でのサービス力をいかに高めるかが日本のIT関連企業における20年来の課題です。以前は、海外に持ち出すシステムを日本と同じようにどう構築するかといった点が議論されていました。今ではクラウドがあるので、それよりもサービスの充実度を高めるための議論に集中できます。しかし、海外では日本の慣例が通用しないといった新たな課題が浮上しています。そうした課題に直面した時に、現地で円滑に交渉するノウハウや、ユーザーに別の方策を提供できるようなソリューション能力が日本のベンダーやシステムサービス会社に求められるでしょう」

 また星野氏は、日本企業の業績における海外市場の割合が高まりつつある現状に触れ、国内のIT関連企業もビジネスモデルを変化させていく必要があると指摘する。

 「もはや、システムインレグレーションやネットワーク、通信サービスといったカテゴリーで自社の事業内容を規定する必要はないでしょう。ユーザーが求めるサービスとは、そうした垣根が取り払われた“真のICT世界”を実現するものではないでしょうか」

フロンティアの先を行く日本のIT

 クラウド活用の広がりは、ユーザー企業だけでなく、ベンダー企業にも大きな変化をもたらすことが予想される。

 アイティメディアの浅井氏は、日本のIT企業が強みとする顧客のビジネスに精通したきめ細やかなサービスが、海外のIT企業に対して大きなアドバンテージになるだろうと話す。「クラウドビジネスとは言え、ベンダーは戦う土俵を選ぶべき。企業顧客のビジネスをどれだけ熟知しているかが大きなポイントです。総合的なコーディネートを手掛ける場合でも、きめ細やかに対応できる範囲の違いがライバルに対する優位性になるでしょう」

 アスキー・メディアワークス TECH.ASCII.jp 編集長の大谷イビサ氏は、単にきめ細かなサービスを提供するだけでなく、コスト削減にも努力しなければならないと指摘する。

 「ビジネスを徹底的に効率化するために、海外事業者は自前でサーバなどの部品を調達してコストダウンを図っています。日本のベンダーがそこまでするかどうかを別にしても、技術力を生かした工夫は継続しなければなりません」

 日経BPの星野氏も、技術面でのアドバンテージが欠かせないとする。

 「日本品質のサービス力は確かに評価できますが、日本のユーザーに合わせて作られたきめ細かなサービスだけではグローバル競争で勝ち残れない可能性があります。海外の事業者と互角に戦える技術力が不可欠です。日本に本社があるグローバル企業であっても、国内のデータセンターを必ずしも必要としているわけではありません。海外に比べて用地やエネルギーなどのコストが高い日本の市場性は乏しく、むしろ海外で勝負していくべきです」


 討論会に参加した各氏が口々にしたのは、かつて製造業において向かうところ敵なしだった技術力である。技術力を持ってすれば、海外市場をリードする日本発のクラウドサービスも夢ではないということだ。それを「過去の栄光を引きずられた発言にすぎない」とするか、「きっと実現できる」とするかは人によって分かれるかもしれないが、少なくともその実現には、日本だけでなく海外の市場にサービスを売るという姿勢があるかないかに関わってくるだろう。ソニーもトヨタといった世界で成功する日本の製造業も元々はその姿勢からスタートしたことを考えれば、ITにおいても外せない条件であるだろう。

討論会に参加した別井氏、大谷氏、舘野氏、浅井氏、田口氏、星野氏(左から)
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