プライベートクラウドの目的の1つはサービス化だ。全ては「利用者の“使いたい”から始まる」くらいの感覚が理想である。利用者との接点となるのが「UI&トリガー(ポータル)」だ。
(このコンテンツはTechNet Blog「高添はここにいます」からの転載です。エントリーはこちら。なお、記事内容は全て筆者の個人的な見解であり、筆者が勤務する企業の立場、戦略、意見等を代表するものではありません)
先日から、「プライベートクラウドの目的」や「プライベートクラウド構築のための4つの要素」における右2つ「プライベートクラウド、4つの要素における“サービス”と“リソースの自動管理”」、左から2番目の「プライベートクラウド、4つの要素における“プロセス制御とワークフロー”」について投稿させていただいています。
あらためて、こちらが4つの要素です。
さあ今回は、最後に残った一番左の要素「UI&トリガー(ポータル)」について見ていきましょう。
プライベートクラウドの目的の1つはサービス化ですから、管理者が勝手に作業をして利用者にITを押し付けるのはよくありません。
すべては「利用者の“使いたい”から始まる」くらいの感覚が理想で、利用者に「使いたい」という意思を表明してもらうなど、利用者との接点となるのが「UI&トリガー(ポータル)」です。
ここには以下のような機能が必要となります。
など。
利用者のメリットを最大化したければ、1つの分かりやすいUIで完結させたいところで、ポータルのようなものが使えるならぜひ使いましょう。
ただ、外販することを考えなければ、自社内で使うだけですから、すべてが1つの画面に組み込まれていなくても実現はできます。
ポータルというUIはあくまでも実現方法の1つであって、なくてはならないということではないのです。
例えば、サービスのカタログ(リスト)は社内にすでにある社員向けWebページに掲載し、利用者からの利用申請はメールでやってもらうというのも不可能ではないわけです。
トリガーと書いてあるのはそのためで、ワークフローにつなぐという役目を果たせればよいとも言えますし、既存のワークフローシステムにプライベートクラウド用の申請書フォーマットを追加するだけで済むかもしれません。
どのように実現するか? は、プライベートクラウドのもう1つの目的であるコスト削減とのバランスを意識しましょう。
さて、具体的な画面について考えてみます。
例えば、仮想マシンをサービスとして提供するというプライベートクラウドでしたら、こんなイメージです。
このサーバの申請の画面では、利用者に選択できる仮想マシンの種類と金額を明示しています。
そして、この画面の中でマシンのスペックを選択してもらって、内容に応じて課金につなげつつ、仮想マシンを自動作成・設定してサービスとして提供するというパターンです。
すごくシンプルで分かりやすいですよね。
もちろん、自社内はパブリックなクラウドのように潤沢にマシンがあるわけじゃないでしょうから、この画面からいきなり仮想マシンの自動作成につなげるかどうかはわかりません。申請があったスペックのマシンを構築できるかどうか、承認作業だけでなく、裏ではIT管理者がリソースの割り当てを行うこともあるでしょう。
さて、サービスが1つなら簡単ですが、複数のサービスを提供することを考えると、パブリッククラウドのサービスの画面から学べることは多いです。例えばマイクロソフトのクラウドでは、
(1) [Business Productivity Online][Live Meeting][Windows Azure]という大項目がカタログ(リスト)として表示されて、3つの中から自分が使いたいものを選択(サービスのフィルター)し、
(2)その中の[Business Productivity Online]サービスを選択したとすると、以下のようにリソースの申請につながるサービスカタログ(リスト)が表示され、
(3)利用者は、使いたいものを購入(プライベートクラウドの場合は「今すぐ購入」ではなく「今すぐ申請」)するという流れが作れます。
この形にしておけば、サービスが増えたとしても対応がしやすくなります。
はじめから複数のサービスを意識したUI作りを始めるのか、まずはシンプルに、今提供できるサービス用のUIを作るのかは、長い目で見て考えて選択して下さい。
さて、仮想マシンのように、リソースによっては部門の担当者自身で管理をしてもらうことになりますので、そのための画面も必要に応じて用意することになります。
こちらは仮想マシンを管理するセルフサービスポータル例です。
利用者がログオンすると、その利用者に割り当てられた仮想マシンがリスト化され、リモートから仮想マシンを個別に管理できます。
最近の運用管理製品にはセルフサービスを意識したものが増えてきていますから、うまくプライベートクラウドの仕組みに組み込めれば、開発や構築のためのコストを抑えることができるでしょう。
また、ドキュメント管理ポータルのような製品でサービス化を進めようとするなら、作ったポータルへのアクセス権設定さえ自動化しておけばよいかもしれません。
さて、この「UI&トリガー(ポータル)」は、目に見えるがゆえにサービスの満足度に大きく影響する可能性があります。
本来は、提供するリソースそのものに予算を掛けたいところでしょうが、できる限り利用者にとって使い勝手のよいものを提供してあげて下さい。
そして、いきなり100点でなかったとしても、きちんと社内のITが進化をしているところを見せるのも重要だと思います。
何をサービス化するのか? 限られた予算の中でどのような優先順位で進めていくか? などを考えていく中で、社内マーケティングも進めていかなければなりません。
1つの例として、マイクロソフト社内では、「サービスを提供しているチームや製品担当チームが、社員を対象にアンケートを実施する」ということが頻繁に行われています。
サービスに点数をつけてもらって「わたしたちはこんなによいサービスを提供しているので、続けるべきだ」とサービス継続の理由に使う(だろうと思われる)場合も、純粋にサービスをよくするための機能要求(フィードバック)を求めてくる場合もあります。
アンケートに回答してくれた人には製品のロゴが入ったグッズを社内便でプレゼントするなどして、「忙しくても簡単なアンケートなら答えてやるか」と思わせる工夫もしています。
このような、利用者の声をうまく吸い上げる仕組みも同じUIに持っていると面白いですね。
まとめましょう。
これまで5回にわたって、わたしが考えるプライベートクラウドの本質について書いてきましたが、いかがでしたでしょうか?
「サービスはアイデア次第」という考えは、パブリックであろうとプライベートであろうと変わりません。プライベートを意識し過ぎて何をすべきか見えなくなったら、一度、世の中のパブリックなクラウドに目を向け、そこからヒントを得てもらえればと思います。
これでわたしが考えるプライベートクラウドの全体像についての投稿は終わりです。
ただ、課金するにも従量制・定額の違いなどがありますし、今後進むであろうハイブリッドクラウド化(一部の処理はパブリッククラウドを活用する)とプライベートクラウド化をどのように融合させていくかなど、考えるべきことはまだまだたくさんありますので、引き続きわたしの頭の中にあるイメージやマイクロソフトの製品から学べそうなヒントについて紹介していこうと思います。
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