電力使用の実態を把握して適切な利用を目指すスマートグリッドの取り組みが海外を中心に進められている。国内でも夏場の電力不足に対する懸念からスマートグリッドへの関心が高まるとして、SAPジャパンが取り組み状況を紹介した。
SAPジャパンは5月24日、都内でプレスセミナーを開催し、スマートグリッド分野に対する同社の取り組みを紹介した。「予想される夏場の電力不足を背景にエネルギーの効率的利用に関する議論が広まり、当社の取り組みを役立てていただきたい」(サステナビリティ推進室 松尾康男氏)という。
SAPでは電力やガス、水道などの公益企業向けのソリューション製品として、2008年から「SAP AMI Integration for Utilities」を提供する。エネルギーデータの収集・管理や料金計算、請求、回収といった業務に関する機能と設備管理の機能などで構成され、導入企業は世界で約2600社。スマートグリッドとの関連性が高いのが料金など業務に関する部分であるといい、この機能を約600社が利用する。国内では電力で1社、ガスで2社が採用している。
松尾氏は、SAP AMIについて「これまではデータをいかに吸い上げるかという部分に注力してきた」と話す。具体的には、家庭やオフィスで使用された電力量の自動的に検針し、そのデータから時間帯別の使用実態を分析したり、リアルタイムで料金を計算したりする機能を10年以上提供してきたという。スマートグリッドが注目されるようになり、「今後は需要家に働きかけていく機能が重要」と松尾氏は述べた。
その一例が、パートナー企業と検討を進めている「Meter Data, Unification & Synchronization(MDUS)」というアーキテクチャ。検針装置など需要家側のシステムとエネルギーを供給する側の管理システムをつなぐ役割を果たし、SAP AMIとはWebサービスを介して接続する。大容量データの処理や多様な通信方式への対応が可能になるという。
またSAP AMIではインメモリ技術を活用したリアルタイム分析機能を新たに実装する予定。2012年にはスマートグリッドの運用支援や分析機能のさらなる強化を実現し、2013年に電気自動車(EV)などへの対応を図るといったロードマップを打ち出している。
SAPは、欧州を中心としたスマートグリッドの実証実験にも多数参加する。例えばドイツ南西部で行われている「MeRegio」という実験では、950件の家庭などにスマートメーターや制御機器を設置して、電力使用の監視や制御、地域電力市場の構築といった実証が進められ、SAPは欧州電力取引所と連動した市場プラットフォームの構築を担当。
またEVに関する取り組みでは、2月に30台のEVを社用車として導入し、450人の社員が業務で共同利用する実証実験に着手した。同社では社員に約1万2000台の社用車を支給しており、EVへの切り替えによる効果を検証する。実験では欧州内での出張にEVを利用し、社員はWebシステムでEVの利用を予約する。同時に太陽光発電を利用した充電施設を同社の拠点に整備し、環境面への影響やEV利用の可能性と課題の抽出を進めていく。
国内では2009年から千葉・柏の葉で行われているスマートシティプロジェクトに参加中だ。
松尾氏は、「節電や総量規制で電力不足を乗り切るというのはその場限りの対応でしかない。電力供給の在り方自体に“メス”を入れ、利用実態に即したコントロールを需要家を一緒に実現していくべきだ」と話した。ソリューション製品やスマートグリッドに対する取り組みでもって、国内でのエネルギーの効率的な利用に貢献したいと語った。
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