最近の「お笑い」における考察――大人目線と子ども目線の大きな違い萩原栄幸が斬る! IT時事刻々(2/2 ページ)

» 2011年10月15日 08時00分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]
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「お笑い」をみる子どもと大人

 お笑い番組に言及するとしながら、かなりの部分を筆者の恥しい過去で占めてしまった。だが、こういう視点でもって最近のテレビ番組におけるお笑いタレントの映像を見ていただきたい。それまで何も意識していなかったものが、「18禁」の映像か何かのような感覚で見えてくるかもしれない。

 当然ながら、映像の中での彼らの動きは”演技”である。中には“どっきり”と称して、本人が“本当に”知ることなく、急に水の中へ落とされるようなシーンもある。しかし、そうした彼らの行為は「等価交換」という経済論理で報われる。つまりは「出演料」であり、しかも一般の人には縁がないほどの高額である場合が多い(本人の手取りは少ないかもしれないが)。

 筆者は最近のセミナーでこう話している。「努力」を「お金」に換算するなら、費用対効果の観点で一番効率的な仕事は「お笑いタレント」かもしれないと。

 お笑いタレントの世界には厳しい競争があるといい、下積みの間は奴隷のような扱いを受けるだとか、成功するのは100人に1人ぐらいだとかといった、彼らの言い分が分からないわけでない。だがそれらを考慮しても、やはり費用対効果の高い仕事だと筆者は個人的に思う。「仕事が深夜に及んで寝る暇もない」とかという話はどの業界にもある。筆者がシステムエンジニアだった昔は、残業時間が月に280時間になることがあった。今では法律などでこのような事態は認められるものではないが、もし当時の筆者が一流の仕事人だったとしても、そういう残業でどのぐらいの報酬を手にできていただろうか。しょせんはサラリーマンなので、大した金額にはならない。年収が2000万円にもなるような人間は、組織の中ではまれである。ところがタレントであれば、給与制ではあっても極めて高い報酬となる。

 お笑い番組を見ている子どもたちは、そういう大人の“裏“の事情を知らない。むしろ、映像のような行為を真似すれば、周りの大人が喜んでくれるとさえ思ってしまう。これは極めて危険な流れだと感じている。そして的外れな指摘かもしれないが、最近ではひょっとしたらサービス精神で「いじめ」をしているのではないかと思うテレビシーンも見え隠れするようになった。例えば、芸人仲間の身内ネタで笑わせる番組だ。視聴者はその話題の背景を知らないと、彼らがなぜ笑っているかも理解できない。ただ、面白い表情や一見真剣な表情を繰り返し、水を浴びせる「いじめ」などの「演技」を行うのである。視聴者のテレビ離れが指摘されているが、こんな状況ではますますテレビ離れが進むだろう。

 かつては、きわどい「どつき」シーンがお笑い番組を盛り上げた。それが高じて、最近では「使い捨て」と揶揄(やゆ)されるタレントへの強烈な仕打ちが目立つようになった。“笑い”だけでは済ますことができない“ひどい”シーンが昔に比べて異様に増えた印象を受けるのだ。単に筆者が「時代遅れ」なのだろうか――。

 子どものことを考えれば、一部のお笑い番組、もしくは一部のタレントの出演シーンは、「18禁」や「R15指定」のような規制をかけるべきではないかとすら思う。

 今のお笑いを見ている子どもたちが、「まじめや苦労は愚か」という考えをしてしまうのではないかと不安に思えてならない。本来は、「真面目はいいこと」「苦労は自ら買ってでもするもの」であるべきであって、こうした考え方がなければ、社会を良くしていくという行為も生まれないのである。お笑いは、かつては「心のオアシス」と呼ばれていた。その立ち位置を早く取り戻してほしい。筆者は心からそう願っている。

 なお、筆者は“どつき”の漫才を否定しているわけではなく、その世界を表現する行為として必要なものだと認識している。しかしそれは、あくまで漫才という世界の中だけのものであり、漫才以外の世界で表現すべきものではないだろう。本来は、大人が「そういうものだ」と子どもに教えるべきだろうが、大人にその役割を期待することが昔以上に難しい時代になったと思えてならない。

萩原栄幸

一般社団法人「情報セキュリティ相談センター」事務局長、社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、ネット情報セキュリティ研究会相談役、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格した実績も持つ。

情報セキュリティに関する講演や執筆を精力的にこなし、一般企業へも顧問やコンサルタント(システムエンジニアおよび情報セキュリティ一般など多岐に渡る実践的指導で有名)として活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。


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