Citrix、クラウド戦略の網羅的なアップデートを披露Citrix Synergy 2011 Barcelona Report(1/2 ページ)

「Three PC」戦略を掲げるCitrixは、スペインで開催中のカンファレンスでクラウド関連における多数の新製品や技術を発表した。この中から企業で関心の高い仮想デスクトップ関連の話題をレポートする。

» 2011年10月27日 18時19分 公開
[渡邉利和,ITmedia]

 米Citrix Systemsは、スペインのバルセロナでEU圏でのプライベートイベント「Citrix Synergy 2011 Barcelona」を開催している。現地時間10月26日に行われた基調講演で、一気に6件もの新発表を行った。同社が掲げる「Three PC」戦略に基づき、クラウド環境を完成させるために必要と考えられる“ピース”を網羅的にそろえてきた印象だ。

基調講演に立ったマーク・テンプルトンCEO。EU圏初の開催となった2010年のイベントに比べると、規模が拡大し、来場者の反応も熱狂的だった

「Three PC」戦略

 同社が戦略の中心に据えているのが、「Three PC」(3PC)という言葉だ。これは、“Personal Cloud”“Private Cloud”“Public Cloud”の3種類のクラウド全て“PC”と略記したもの。スマートフォンやタブレットなどの新しいモバイルデバイスが急速に普及し、「PC時代の終息」が語られる中で、同社も「PCの時代からクラウドの時代へ」という認識を基本としているが、一方でPCが単純に消えていくわけではないという意味も込めたものだろうか。ある種の言葉遊びのようなものだが、根本的な考え方としてはある意味でシンプルである。目的が異なるクラウドが併用されるようになり、それぞれに異なる機能や特徴が必要とされていということであった。

 “Personal Cloud”は、個人で構築するクラウドという意味ではなく、個人が利用するインターネット上のオンラインサービス全般という程度の意味合いになる。“Private Cloud”は企業などが組織の内部で構築して利用するクラウド、“Public Cloud”はクラウド事業者が構築し、ユーザーにサービスとして提供するクラウドということになる。

 今後のIT環境を考えていく上ではおおむねこの3要素を軸に、それぞれの機能の充実や相互の関連について考えればよいという、現状整理のための図解に位置づけられているものだろう。今回、同社が発表した新製品群は、全てこの「Three PC」という考え方に基づいて整理されている。ここでは、主にデスクトップ仮想化に関連する発表について取り上げる。

同社が掲げる「Three PC」のコンセプト

ストレージもオンラインスサービスに

 まず、Personal Cloudの分野では「Follow-Me Data」が発表された。10月13日に明らかにされた米ShareFile買収に基づくもので、SaaS型で提供されるオンライン・ストレージ・サービスとなる。Citrixはこのインフラを拡張し、「Follow-Me-Data Fabric」として提供する計画だ。Follow-Me Dataとは、「ユーザーがどこにいてもどのようなデバイスを使っていても、必要なデータに常にアクセスできる」という意味を込めた名称である。Citrixでは以前からデスクトップやアプリケーションの仮想化技術によって、どのようなデバイスからでも業務用デスクトップにアクセスできる環境を実現していたが、Follow-Me Dataはオンラインストレージという切り口でこの環境のより一層の充実・拡大を図るものだ。

 ストレージ関連する買収としては、上記とは別に米RingCubeの買収が行われ、「vDisk」技術を獲得している。これはインテリジェントなキャッシュ技術で、そのときに必要なデータだけをローカルにキャッシュするというものである。Follow-Me Dataのようなオンラインストレージと組み合わせることで、ローカルに大量のデータを保持しておく必要性がなくなるという。

 次に、HDX(High Definition eXperience)に関する取り組みについて発表された。HDXは同社のリモート接続技術の中核に位置づけられるもので、リモートデスクトップを実現するユーザーインタフェースの転送のためのプロトコルと、高精細な画面情報やマルチメディアストリームなどを限られた通信帯域で効率よく転送するための高速化技術などが含まれている。

 このHDXの機能をハードウェア化した「HDX System-on-Chip」の開発が明らかにされた。同社とTexas Instruments(TI)、N Computingが共同開発するもので、TIとN Computingがそれぞれ独自に実装したチップを販売する予定だ。いわばHDX専用のハードウェアアクセラレータといえるものだろう。

 基調講演では、TIやN ComputingのほかにDell、富士通、 Hewlett-PackardといったPCベンダーや、長年Citrixと協力関係にあるWyse Technologyなどの名前が挙がった。これらのパートナーは、現時点ではTIやN Computingのチップが完成したら、チップを購入することをコミットしている。だが、具体的に製品化されるかどうかまでは確約されてはいない。担当者に別途取材すると、「来年5月ごろに予定される米国でのSynergyで具体的な製品が見られるのではないか」ということであった。

HDX System-on-Chipに賛同するパートナー。現時点ではシンクライアント端末での利用が想定され、チップの目標価格は100ドル以下という
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