いま改めて考える「日本企業のグローバル化」

グローバルICT討論会が開催、メディアの論客が示した「グローバルICT」の行方(1/2 ページ)

企業のグローバル化、それに伴うICTの今後の方向性はどのようなものか――主要IT系メディアの論客が一堂に介し、これをテーマにした討論会が行われた。

» 2011年11月14日 10時00分 公開
[真野祐樹,ITmedia]

 日本企業が直面している大きな課題がグローバル化である。そして、ビジネスを世界に展開していく上で欠かすことができないのがICTだ。企業のグローバル化とICTをテーマに、主要IT系メディアが意見を交わす「グローバルICT討論会」が10月28日に開催された。

 今回の討論会の出席者は、朝日インタラクティブ CNET Japan編集長の別井貴志氏、アスキー・メディアワークスTECH.ASCII.jp編集長の大谷イビサ氏、日経BP コンピュータ・ネットワーク局ネット事業プロデューサー兼日経コンピュータ編集プロデューサーの星野友彦氏、アイティメディア ITインダストリー事業部エグゼクティブプロデューサーの浅井英二氏。モデレーターをアイ・ティ・アール シニア・アナリストの舘野真人氏が務めた。

10月28日に開催された「グローバルICT討論会」

 舘野氏から提示された討論のテーマは、「東日本大震災を受けて企業のICT戦略はどう変ったか」「グローバルICTガバナンスのあるべき姿とはどのようなものか」「グローバル時代におけるクラウドの価値とは」「変わりゆくICTパートナーの条件」の4つである。なおこの討論会は「NTT Communications Forum 2011」のイベント会場で行われた。

東日本大震災が浮き彫りにした日本の問題

 震災とグローバル化は、一見すると関係が薄いのではと思われがちだが、東日本大震災発生後の電力供給に対する不安などをきっかけに、拠点の海外移転やデータセンターの海外移設を検討する企業が大幅に増えた。このことを考えれば、震災とグローバル化という2つのキーワードに密接な関連性があるということが分かる。

日経BP コンピュータ・ネットワーク局ネット事業プロデューサー兼日経コンピュータ編集プロデューサーの星野友彦氏

 震災発生後、企業にとって改めて意識されたのが、ディザスタリカバリ(災害復旧=DR)やBCP(事業継続計画)である。日経BPの星野氏は、「日経コンピュータ」のアンケート調査で日本企業300社のCIO、システム部長の多くが、この2項目について投資の優先順位を上げていると話す。さらに星野氏は次のように語る。

 「BCPについて、日本企業が何もしてこなかったかというとそうではない。しかし、別の調査では99%の企業が今回の震災では『BCPが機能しなかった』と回答している。想定外の規模の災害だったということなのかもしれないが、BCPは継続的にマネジメントしていくもの。ITを使って冗長性の高いBCPやDRを構築していくかがこれから重要なトピックになると思う」

 “想定外の”規模の災害ということについて、浅井氏は次のように話す。

 「当社では、『ITmedia エグゼクティブ』というコミュニティー情報サイトを運営している。そこでのイベントを開催した折にセコムの方から聞いた数字だが、世界の中で日本の国土が占める割合は0.25%。その国土に世界中の活火山の7.1%があり、世界中で起こるマグニチュード6以上の地震の20.5%が発生しているという。そうした環境にいて、“想定外”という言葉で済まされることはないはずだ。BCPを継続的にマネジメントすることはもちろん、情報システム部門は、データセンターや拠点の移設、新設に関して、経営サイドに的確な判断材料となるデータを提供していく必要がある」

 別井氏は、今回の震災後に取材した関係者の話として次のエピソードを紹介した。

 「被災地域の自治体などで、何とか業務に使うデータのバックアップデータは確保していても、活用できないというケースがあった。確保したバックアップデータの形式を、システム上で変換する方法が分からないという事態になってしまったわけだ」

 大谷氏は、万一のためのバックアップシステムの構築には、コスト面で折り合いがつかないケースがあると指摘する。「普段は何も使わない予備システムのために多大なコストを負担できない、という経営サイドのスタンスに対して、IT部門が説得しきれない面もある」

 星野氏は、今回の東日本大震災が日本社会の持つ構造的な脆弱性、課題を浮き彫りにしたのだと指摘する。BCP、DR、バックアップデータの再現性とデータの標準化、バックアップサイト構築のコスト的な問題など、それぞれに対して新しい施策とマネジメントスキルが必要だ。しかし、震災とグローバル化の関連性で言えば、4氏が語ったことは、もっと大きなガバナンスに関する問題意識に根ざしたものだといえる。浮き彫りとなった脆弱性や課題を克服するために、ガバナンスに対する考え方をどう変えていくか、ということなのだ。

グローバルガバナンスのスタイルは業績にも影響

 グローバル化に伴い、ICTガバナンスはどう変化していくのだろう。

 モデレーター舘野氏も含めた参加者のグローバル化に対する共通認識を改めて確認しておくと、「現在の日本企業のグローバル化は、単に安い労働力に頼った生産拠点作りではなく、市場として進出先をとらえたものである」ということだ。グローバル化の質の変化は、ガバナンスにも大きく影響するはずである。

 ここで舘野氏は、アイ・ティ・アールが実施した調査結果を示した。これはグローバルガバナンスを進める上での基本方針を、500社以上の企業のIT担当者に聞いたものだという。

 「グローバルガバナンスについて、現在はどう考えているか、それから、今後はどうしようと思っているかを尋ねた。『日本から全世界の情報システムを統括管理する』と考えている企業は、現在は53%あるが、今後については、37%ぐらいに減っている。今後の方針として逆に増えているのは、『国外の拠点から全世界を見る』というところ。それから『国外の拠点から全世界を見る』それから国内と国外の2極体制で統括管理するという回答が続いている」

 また同じ調査で、「グローバルでITガバナンスを実施していくときに、どういう体制で行いますか」という設問に関して、「今のところは、本社のIT部門の体制強化によって進める」と回答している企業か6割を占める。しかし、「今後に向けても同様に考えている」のは4割に減少している。一方で、「海外のIT部門もしくは海外の子会社を体制強化していく」という回答が、現在と比較して今後の方向性としては2倍に増えている。

 さらにITにおけるグローバル標準の望ましい形について、現在と今後で聞いている。「現在は日本の要求水準を全世界に展開する」というのが45%。それが今後のあるべき姿となると半減し、代わって「海外で標準とされている環境を、日本を含めた全世界に展開する」というのが、現在では15%だが、今後としては倍増していくという。

アイティメディア ITインダストリー事業部エグゼクティブプロデューサーの浅井英二氏

 浅井氏はこれら結果を受けて次のように語る。

 「ガバナンスというと、不祥事などを起こさないように管理するという統治の意味あいもあるが、投下資本を効率良く活用して競争力強化につなげて、収益を上げよというガバナンスもある。予算統制をしているからグローバルガバナンスができているという時代から、ビジネスのゴール達成に寄与しているのかという時代に変化している。ITガバナンスも当然そちらの方向に進んでいくはずだ。それを意識しているからこそ、このような調査結果が出るのだと思う」

 舘野氏は今回の調査で、「ある傾向がつかめた」と話す。それは、海外からシステムを統括管理している企業のほうがグローバルの各市場で売り上げを伸ばしているということだ。「短絡的に因果関係を導くのは早計かもしれないが、北米の市場、欧州市場それぞれで成果を出している企業は、結果的に海外主導でITガバナンスを進めているケースが多い」(同氏)

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