この2つの要件のうち、クラウドの活用可能性を考える場合に関係するものとして、通信手段の確保を詳しく見ていく。
今回の震災の際に、通信手段としての携帯電話や固定電話はその使用が制限されてしまったが、インターネットは利用可能だったという点は、海外メディアでも注目を集めている。
地域ごとの検索トラフィックを解析するGoogleのサービス「Google Transparency Report」からも、日本からの活発なトラフィックが確認されており、地震発生直後に一時トラフィックが落ち込んだものの、その日の終わりまでには通常のレベルに回復されている。国際的なネットワーク・トラフィック監視団体Renesys も、日本国内にある約6000 のネットワーク・ノードのうち、震災時に約100 のノードが一時的に中断したが、数時間のうちに復旧したことを報告している(ノードは、正確には、「グローバル・ルーティングテーブルのネットワーク・プレフィックス」のことを意味する)。インターネットは災害に強いということが証明された形になる。
この事例を見ると、通信手段の確保という点では、クラウドにはBCPに十分使えるといえそうである。
一方、「一瞬たりとも止まることなく、レスポンスタイムも保証し、連続稼働する」というシステムの場合はどうだろうか。
クラウドを支えるインターネットは、その柔軟性を得るために、パフォーマンスを常に保証することができない性質を持っている。例えば、クラウドサービスを提供している事業者がSLA(サービス品質保証契約)に基づいて提示している信頼性はおおよそ99.99%だが、このレベルだと1年間で50分程度障害発生の確率があることになる。ホットスタンバイのように、障害発生時に確実にバックアップシステムに切り替わらなくてはならないシステムが要求する信頼性には応えられていない。
もちろん、技術的に不可能というわけではない。今でも、共同化センターという形で、リモートのデータセンターがミッションクリティカルのシステムのバックアップとして使われている。
単に、今日のクラウドの主要ベンダは、現在、安くて、手軽に使えるシステムが、実用的な信頼性で手に入るという市場に注力しているので、一瞬たりとも止められないという高信頼性のシステムを、メインのターゲットとはしていないだけである。
その表れとして、海外でも、AmazonやGoogle、あるいはsalesforce.comに関する事例や活用方法は多く聞かれるが、BCPに関しては、ほとんど事例が見当たらない。米GartnerのCIO(最高情報責任者)であるダーコ・ヘリック氏自身が、「米国ではクラウドは危機対応の選択肢として検討が進んでいるのか」という問いに、「多少はあると思うが、さほど盛んだとはいえない」と答えていることからも状況をうかがい知ることができる。
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