本当にクラウドは企業BCPの救世主となるのか?

想定外に備えた経営基盤構築(1/2 ページ)

東日本大震災以降、多くの企業は事業継続計画の策定や災害対策に、よりいっそうの力を注ぐようになってきた。「想定外」への対応についてPwCが解説する。

» 2011年12月12日 09時00分 公開
[西方健治,プライスウォーターハウスクーパース株式会社]

 3月11日の震災発生から9カ月が経過した。震災をきっかけに事業継続への取り組みを改めて見直している企業は多い。本稿では、「想定外に備えた経営基盤構築」をテーマに、いかに企業が災害などの想定外に備えていくかを考察する。

想定外とは何か

 まず想定外とはどのような状況なのだろうか。想定外とは、「脅威の発生を全くもって想像していなかった」ことと、「脅威として想像し、事前の対策は行っていたものの、実際の被害が想定を超えた」ことの2つに分かれる。

 前者は、脅威が具現化した場合には組織全体の事業継続に対するレジリエンシー(企業が事業中断に陥っても、その後しなやかに、かつ、力強く復旧する能力)が不可欠であり、経営者が常日ごろから事業継続への取り組みを徹底していく必要がある。こちらについてはPwC Japan あらた監査法人 あらた基礎研究所所長の安井肇が対応を論じているので、同記事を参照いただきたい。ここでは、後者の「被害が想定を超える」事態に備えて、いかに経営基盤である情報システムを構築していくかを検討したい。

東日本大震災の被害と対応状況

 今回の震災では、多くの企業の情報システムも被害を受けた。その被害は、情報システムを構成するサーバ機器やバックアップ装置の物理的な破損によるデータ消失、電力供給停止によるシステム停止、交通機関の長時間運行停止による人的リソース不足にまで至っている。従来の自社活動拠点およびその近隣で対策を講じていただけでは、今回の想定外の被害に耐えることができなかったと言える。

 こうした教訓を踏まえ、企業は情報システムを自社活動拠点から遠く離れた社外データセンターへの移転や、バックアップセンターの構築を検討し、想定外の自社被害をリスク分散して備えようとしている。しかし、実際には、移転やバックアップセンター構築のための予算が確保できず、実行に至っていない企業が多い。筆者の知る企業においても、震災直後は経営陣もバックアップセンター構築に前向きだったものの、構築費用や対応に必要な時間が明らかになった段階で尻込みし、計画が頓挫してしまった例がある。では、どうすればよいか。

オフプレミスの活用

 筆者は、予算が限られた中で、かつスピーディに情報システムの継続性を向上させるためには、パブリッククラウドの活用が有効な手段の1つだと考えている。これはクラウドの特性であるオフプレミスを考えても合致している。

 オフプレミスの利点は、情報システムリソースを自社の資産として保有せず、クラウドサービス事業者のリソースをサービスとして利用することで、企業の情報システムに対する初期投資を抑えつつ、自前でシステム構築するよりも短時間でシステムを利用開始できることにある。また、それ以外にも、一定程度のクラウドサービス事業者であれば、強固なデータセンターおよび充実したファシリティを備えていることが多く、自社でバックアップセンターを構築するよりもコスト効果が高いといえる。社内システムをいくつか例にしてクラウド活用場面を考えてみよう。

メールやグループウェアへのクラウド適用

 メールや情報共有のためのグループウェアはクラウドを活用しやすい領域といえる。震災以前もクラウド活用にあたってはグループウェアを先行適用する企業は多かった。メールやグループウェアをクラウドサービスに移行すると、セキュリティ確保を行えることが前提だが、自宅のPCや普及が進みつつあるスマートフォンを使って、震災時にも会社のメールを閲覧でき、経営陣からのメッセージ発信や社員間のコミュニケーションも円滑にできる。移行のメリットは大きい。

 ただし、課題もある。メールやグループウェアの移行では、データ移行はCSV形式で比較的容易に行うことができるが、メール作成やスケジュール登録など、ユーザーの基本操作が変わることで抵抗を受ける可能性がある。実際にクラウドに移行する場合にはユーザーへの周知や教育も十分に配慮する必要がある。

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