誰もが1本は持っているジーンズ。コットン製品ということでナチュラルなイメージがあるが、その製造過程では大量の農薬や化学薬品が使われているという。
環境の負荷になる要素を下げて製品を作りつつ、業界の慣習にとらわれた無駄をなくすリー・ジャパンのさまざまな取り組みについて、取締役の細川秀和氏に聞いた。
「ジーンズメーカーというのは、環境負荷の大きいビジネスを行っている企業なんです」。ジーンズブランドLeeを展開するリー・ジャパンの細川氏によると、いま流行のジーンズは、新品であっても洗いざらしたようなユーズド加工やダメージ加工などが施されることが多く、その過程で大量の化学薬品と洗浄用の水を使用するという。これらをなるべく減らし、廃水や廃液がきちんと環境基準を満たすように管理するために、さまざまな努力をリー・ジャパンでは行っている。化学薬品ではなく天然由来の酵素を利用するようになったのもその1つだ。
ジーンズ製品を製造する際には、大量の端布も出る。場合によってはこれを廃棄、あるいは焼却処分することもあるが、資源の有効利用やCO2の排出量削減の観点からそれは好ましくない。そこでリー・ジャパンでは、端布を使って新たなデニム製品を開発することにも積極的に取り組んでいる。「ブックカバーやパスポートケース、ポーチなどさまざまなものを作っています」と細川氏は話す。
単なる資源の有効利用だけでなく、ファッショナブルで使いたいと思わせる物作りをしているところにリー・ジャパンのこだわりがある。こういった物を提供することで接触面を増やして、デニムをさらに身近なものとして再認識してもらいたい、との意図もある。
資源の有効利用は端布だけではない。「市場では穴が空いた加工をしているジーンズを高い値段で販売しています。しかし穴が空いていてはいけないジーンズは、ちょっと傷がついているだけでC級品として廃棄するのがこの業界の常識でした」(細川氏)
こういったC級品に関して付加価値をつけ再利用する「LeeBIRTH PROJECT(リーバース・プロジェクト)」も始めた。倉庫で眠っている型落ち品やシーズンが終わり店頭から外されてしまう品、着用に問題はないが傷などで店頭に並べられない品などに、デザイン的に新たな付加価値を施し、新たなオリジナル製品として生き返らせたものだ。こういったさまざまな取り組みで、より環境負荷が少なく付加価値の高いビジネスを展開しているのが、リー・ジャパンなのだ。
環境負荷を下げる取り組みとしてもう1つ実施しているのが、オーガニックコットンの採用だ。「綿を生産する際に使う農薬を減らそうということで、2005年くらいからオーガニックコットンの利用に取り組んでいます」(細川氏)
綿の生産地では、環境の農薬汚染の問題が発生している。米国などの大規模な綿花農場では、機械による収穫を容易にするために、ダイオキシンなどの有毒物質を取り除いた枯れ葉剤を使用したりもしている。また、綿花には病害虫が発生しやすく、多くの農薬が使われるのが普通だ。
綿製品は直接口にするものではない。また加工される過程で何度も洗浄され、ジーンズなどの最終製品になるまでに農薬成分のほとんどが洗い流されるため、購買者に抵抗感があまりないのも農薬使用が続いている理由の1つかもしれない。
とはいえ農薬使用は生産者の健康被害を引き起こしたり、環境を汚染することもある。インドなどでは、必要以上に農薬を使ったために周辺の井戸水を汚染してしまった例もあるそうだ。しかし、これは農薬そのものが悪いということではない。量が多すぎるなど、使い方に問題があると細川氏は考えている。であるならば、正しい農薬の使い方を生産者に啓蒙するのも、原料を利用するメーカーの大事な役割である。
しかし、生産現場で細かく正しい農薬の使い方を指導するのは、現実的には容易ではない。であれば、農薬を一切使わないオーガニック生産のほうがシンプルで適用しやすいとリー・ジャパンは考えた。オーガニックコットンをそうでないコットンより高い値段で流通できれば、生産者はオーガニックコットンに移行しやすくなる。そうなれば、当然ながら環境に対する負荷も軽減できる。
「オーガニック化すると面積単位あたりの収量は減るのですが、農薬などにかかる費用がなくなるので、トータルの収益ではイーブンになります」(細川氏)
こういったことをきちんと生産者に理解してもらうことで、少しずつでもオーガニックコットンの割り合いを増やしていく努力をリー・ジャパンはしているのだ。しかしながら、生産量は年々伸びているとはいえ、全体から見ればその割合は数%にも満たないのがオーガニックコットンの現状。コットンを利用するメーカーがやるべきことは、まだまだたくさんありそうだ。
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