2012年新春インタビュー

東北をコットンの生産地としてブランディングしたい──リー・ジャパン・細川取締役2012年 それぞれの「スタート」(2/2 ページ)

» 2012年01月30日 08時00分 公開
[聞き手:谷川耕一、鈴木麻紀,ITmedia]
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津波被害からの復興を目指す、東北コットンプロジェクト

 リー・ジャパンでは、資源の有効利用やオーガニックコットンの拡大などの他にも、興味深い活動を開始している。それが「東北コットンプロジェクト」だ。

宮城県で収穫した東北コットン

 広大な水田が広がり稲作が盛んだった宮城県の荒浜地区や名取地区は、昨年の東日本大震災で甚大な被害を受けた。津波が襲い、さらに地震で用水路が破壊されて排水ができなくなり、深刻な塩害が発生してしまったのだ。現状ではこの先数年間にわたり、再び稲作を行うことは絶望的だ。

 このままでは、現地の農業は産業として成り立たなくなってしまう。物資を送るなどの短期的な支援だけでなく、離農を防ぎ継続的に農家の人たちの生活を支える支援はできないか。そこで生まれたのが東北コットンプロジェクトだ。「綿花は塩に強いという科学的なデータがありました。海辺の開拓地などでは、数年間まずは綿を生産し、それから稲作に切り替えるといった実例もありました」(細川氏)

 日本における綿花の生産は鎌倉時代に始まり、戦国時代から江戸時代にかけて盛んになった。一時期は輸出も盛んに行われていたが、戦後輸入品への関税を廃止したこともあり、一気に海外の安価な綿が大量に輸入された。その結果、現在では個人やグループなどが特定の目的のために栽培しているものを除けば、日本では農業としての綿花の生産は行われていない。

 そんな中で、東北で綿花を栽培し、東北コットンとして新たなブランディングを行う試みが始まったのだ。東北コットンプロジェクトには生産者はもちろん、50社あまりのさまざまな企業が参画している。リー・ジャパンも商品企画、製造、販売の立場から、いち早くこのプロジェクトに参加した。「東北を日本産の綿の産地としてブランディングしたい」と細川氏は話す。

 コットン製品は身の回りにたくさんあるが、それが実際綿花からできあがっていることを知っている子どもは少ないだろうとのこと。東北が綿の産地になれば、そういった子どもたちのためのワークショップなどにも活用できるはずだ。

 「綿を作るだけが農業ではなく、生産して加工して、それを流通に載せブランディングするところまでが農業だということが若い世代に伝えられれば」と細川氏は語る。そうすることで、本当の意味で農業を理解し、農業に真剣に取り組む若者たちが増えていくのではと期待する。

宮城県を綿の生産地として小学生にも認知されるようにしたい

東北コットンを見つめる細川氏。一時的な同情ではなく、持続可能にビジネスとして回せる仕組みにしたいと話す

 東北コットンプロジェクトでは、昨年6月に初めての種蒔きを行った。しかし気温の関係で十分な生育期間が取れず、初年度は期待した量の収穫は難しいという。「今回は100キログラムにしかならないでしょう。ほかのオーガニックコットンに東北コットンを1%混ぜるなどするのが精いっぱい」とのことだ。今後は養苗を行うなどして気温のハンデを克服し、収穫量をどんどん増やす。そして混合率を5%程度にまで増やし、東北コットンブランドのジーンズを提供したいと構想している。

 「栽培できる農地はまだまだたくさんあります。生産量を増やし、いい綿を作っていくことで東北コットンをブランド化する。最終的にはビジネスとして、きちんと成り立つようにしていくことが重要だと考えています」(細川氏)

 2020年、あるいは2030年ころまでには、小学校の社会科で使う地図の宮城県に綿のマークが記載されるようにしたいとのこと。単なるボランティア的に東北を支援するのではなく、東北コットンを使用するジーンズの付加価値を高めて自社のビジネスの拡大にもつなげる。継続的な被災地支援を考えつつ、ビジネスとしてきちんと成り立たせるという目線は極めて重要だ。

 とにかく効率化を求め、安価に顧客の好みに合わせたものを迅速に提供するという考え方もある。それが日本のビジネスモデルの代表的な成功例だという声もあるだろう。しかしリー・ジャパンの活動は、国内生産にこだわったり、オーガニックコットンの採用に積極的だったり、そういった路線とは一線を画す。

 日本流の古き良き物作りへのこだわりをきちんと持っていて、良い製品を適切な価格で市場に提供する。その一方、旧い商習慣に固執するのではなく、さまざまな面からのデニム利用拡大にも積極的に取り組み、中長期で製品や市場がどうあればいいのかを真摯に考える。これがリー・ジャパンの考える効率化なのだ。こういう姿勢のメーカーが作るジーンズなら、消費者はきっと欲しくなるに違いない。

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