クラウド全盛時代を見据えるCitrixの秘策? Project Avalonの狙いCitrix Synergy 2012 レポート

Citrixが年次カンファレンスで発表したクラウド関連プロジェクトの「Project Avalon」。そのデモンストレーションからはクラウド全盛時代を見据えたさまざまな“可能性”が提示された。

» 2012年05月14日 12時00分 公開
[渡邉利和,ITmedia]

 米Citrix Systemsは5月9日から3日間の日程で、米国サンフランシスコにて年次カンファレンス「Citrix Synergy 2012」を開催した。2日目のゼネラルセッションでは多数のゲストスピーカーが登壇して、各人が特定のトピックについて語った。ここでは初日の基調講演で予告された「Project Avalon」のデモも公開された。

クラウドは……ではない

 ゼネラルセッションのホスト役は、グループバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャー クラウドプラットフォーム グループのサミール・ドラキア氏。トピックごとにゲストスピーカーを招いて語ってもらうという形式であった。基調講演でCEOのマーク・テンプルトン氏がほぼ単独で同社の製品とビジョンについて語ったのとは対照的に、ゼネラルセッションはいわば“業界全体の了解事項を踏まえ、その中にCitrixを位置づける”といった趣向であったようだ。

サミール・ドラキア氏

 全体テーマとして設定されていたのは、“Cloud is NOT ……”(クラウドは……ではない)というもので、一般にクラウドとして語られている要素について「これはクラウドではない」と語ることで、逆説的に「クラウドとは何か」「クラウドはどういうものであるべきか」を示すというスタイルだった。否定されたのは、“トップダウン”“次世代サーバ仮想化”“ロックイン”“単なるインフラ”などの6項目だ。ただし、クラウドの基本的な考え方を再確認する、というテーマ設定自体が来場者の聞きたいことと合致していたかは判断の分かれるところであったかもしれない。

ゼネラルセッションのテーマとなった「クラウドは……ではない」のリスト。

Project Avalonのデモ

 基調講演でテンプルトン氏が予告したこともあって、ゼネラルセッションの参加者の多くの目当てはProject Avalonのデモだったのではないだろうか。予定されたゼネラルセッションの時間をほぼ消化しつつあった最後にProject Avalonのデモが行われた。

 この場で公開されたのはアーキテクチャの図で最上位の階層に置かれた「Cloud-style Service Orchestration(クラウド対応のサービスオーケストレーション)」の機能。実体はXenDesktopの運用管理ツールである「Citrix Desktop Studio」のクラウド対応バージョンということのようだ。

 デモは、XenDesktopでVDI(仮想デスクトップ基盤)のための新しいクライアントPC環境を作成する、というシナリオで行われた。新たに作成される仮想デスクトップの置き場所を各種のクラウドサービスの中から選べるという点が、Project Avalonのデモのポイントであった。デモではAmazon EC2環境に新規の仮想デスクトップを作成した。ただし、これだけだとXenDesktopがリモートストレージとしてAmazonのクラウド環境を利用しているだけと見えないこともない。その点を懸念したのか、仮想デスクトップに割り当てられているIPアドレスが、Amazonがクラウド上で割り当てられるIPアドレスと一致することを示し、仮想デスクトップが実際にAmazonのクラウド環境上で稼働していることを明確にしていた。

Project Avalonのデモ。ウィンドウ左上の表示から、このツールがXenDesktopの運用管理ツールである「Citrix Desktop Studio」であることが分かる。ここでは仮想デスクトップの配置先の仮想化インフラとしてAmazon EC2、Citrix CloudStack、Citrix XenServer、Microsoft virtualization、VMware virtualizationから適切なものを選択しているところ

 このデモからProject Avalonの詳細を知るのは難しいが、現状はProject Avalonの開発意向が表明された段階と理解すべきであり、現時点ではまだ仕様について固まってはおらず、今後βユーザーの意見を聞きながら開発を進めていく比較的初期の段階にあると理解しておく必要があるだろう。今回のデモだけでも、VDIのためのコンピューティングリソースとして外部のクラウドサービスを活用できるようになることは明らかだ。そして、運用管理者は従来の運用管理ツールのインタフェースから任意のクラウドサービスを選択し、仮想デスクトップを分散配置することができることも分かる。

 一方、仮想デスクトップを利用するユーザーが地理的に移動した場合に、遅延を最小化するように特定の仮想デスクトップが自動的にクラウド間で移動されるのかどうかは分からない。運用管理者は既存のデータセンター境界を意識する運用から解放されるかもしれないが、新たにクラウド境界について意識する必要があるのかもしれない。

 また、システムが具体的にどのように実装されているのかも情報が少ない。恐らくは、XenDesktopのサーバがあらかじめクラウド環境上で稼働しており、これらのサーバに対してリモート管理を実行していくのか、あるいは、どこかに中核的なXenDesktopサーバが稼働しており、各クラウドサービス上には仮想デスクトップと最小限の制御モジュールだけが配置されるのか、サーバ自体が分散されて全体で協調動作しているのか、単一のサーバが分散されたリソースを制御しているのか――その正体を今回のデモからは全くうかがえない。

 さらに、Project Avalonが実現するクラウドリソースの利用を、ユーザー側でどのように活用すれば良いのかも判断が難しいところだ。最終的にユーザー側がコンピューティングリソースを所有することをやめ、全面的にクラウドサービスに依存するのが当たり前という環境になれば、その時にはProject Avalonのようなソリューションが不可欠になるだろう。しかし、ある程度のリソースは従来通り社内に用意しておき、動的な追加リソースとしてクラウドを活用するというスタイルの場合は、必要なデスクトップの数が日々大きく変動するようなきわめて流動性の高い企業を別にして、一般的な企業でのメリットはさほどないとも考えられる。

新規に作成された仮想デスクトップ(画面左側のWindows環境)の中で自分のIPアドレスを表示させ、それが右側のWebブラウザで確認したAmazon AWSの管理ツールで確認できるEC2で割り当てられているIPアドレスと合致することを示したところ。逆に言えば、ここまでのデモの流れは従来のXenDesktopの運用管理と大きく違うところはなく、こうした証拠を見せないと何が起こっているのか理解しにくいということでもあるようだ

 デモの中では利用シーンの一例として、XenDesktopサーバのマイグレーションが紹介された。サーバ自体のアップグレードなどの際に、一度サーバ上でホストされている仮想デスクトップを別のサーバに全て移動した上でアップデートを行い、改めて仮想デスクトップを元に戻すというものだ。仮想デスクトップを任意のクラウドサービス上に配置できるということは、仮想デスクトップの可搬性が向上し、いわばライブマイグレーションのような形でサーバ間を自由に移動できるようになったということかもしれない。

 サーバのアップグレードというのはProject Avalonがもたらすメリットとしては、やや地味な印象もあるが、将来のクラウド環境の全面的な利用に向けた準備と位置づけるのであれば、既に現時点で動くシステムができ上がっている点は評価すべき点だ。

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