ビッグデータは両刃の剣、既存の情報システムをどう守る?ビッグデータいろはの「い」(1/2 ページ)

既存の情報システムに多額の投資を行い、それが基幹業務を支えている企業はどのようにビッグデータを扱えばいいのだろうか。そもそもビッグデータは分析の対象だけにとどまらない。ビッグデータ時代の情報システムを考えてみたい。

» 2012年07月19日 08時00分 公開
[浅井英二ITmedia]

 「ビッグデータ」をテーマに掲げたこの連載では、突拍子もないインサイト(洞察)を得るよりも、先ずはデータを中心に事業を運営していく企業文化の大切さを確認するとともに、データを活用して文字通り戦い方を変えたオークランドアスレチックスの例などを取り上げた。また、ビジネスでもビッグデータを分析・活用することでルールを変え、例えば、風力発電プラントの最適な設置場所は分単位で割り出したり、病院では新生児の命を救えることも紹介した。

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 しかし、既存の情報システムに多額の投資を行い、それが基幹業務を支えている企業はどのようにビッグデータを扱えばいいのだろうか。そもそもビッグデータは分析の対象だけにとどまらない。例えば、スマートメーターから刻々と送られてくるデータは、送電網の最適化に活用されるだけではなく、本来は課金のために使われるはずだ。

 マルタ共和国の電力会社、Enemaltaは、IBMの協力を得て、25万台の電力メーターをスマートメーターに置き換えるが、15分ごとにメーターを読み込むと年間のトランザクションは3500億件に達するという。どのようにビッグデータを取り込み、分析し、課金システムに連携させていくかは、工夫が必要だ。

 今回は、ビッグデータ時代の情報システムをどのように構築し、既存システムと連携させればいいのか、テクノロジーベンダーが提供している手法を例に挙げながら考えていきたい。

Engaging Enterprise ── いつでもどこでも顧客が必要とする企業へ

 データの膨大さや多様性こそ比較にならないが、既存の基幹業務システムとインターネットのような外の世界との接続は、1990年代後半に多くの企業が経験した。インターネットが普及し始めたころを思い出してほしい。ホームページを公開するブームが一段落したあと、企業は新たなチャネルとしてWebを介した受発注などを始めたが、これが厄介だった。単に顧客から注文を受け付けるだけのシステムと在庫を引き当てるそれではまるで違うからだ。顧客から納期回答が求められれば、結局のところ、ほかの基幹システムとのシームレスな接続も欠かせなくなってくる。

 こうして生まれてきたのが、Webサーバとデータベースの間に立ってビジネスロジックやビジネスルールを実行したり、既存システムと連携できるようにするJavaアプリケーションサーバだった。「Webサーバ」「アプリケーションサーバ」「データベース」の3層構造のアーキテクチャーは、不特定多数のWebブラウザからのリクエストを処理するにも好都合だった。

 IBMもかつて「e-business」構想を掲げ、こうした新しい市場を開拓したベンダーの1社だった。あれから約15年、「モバイル」と「クラウド」というテクノロジーの進化が「ビッグデータ」を生み出し、多くのビジネス戦略が「ソーシャル」を排除できなくなる中、同社は再び新たな構想「Engaging Enterprise」を打ち出す。

 日本IBMでWebSphereのクライアント・テクニカル・プロフェッショナルを務める須江信洋氏は、「例えば、小売り業であれば、スマートフォンからの位置情報やソーシャルメディアへの書き込みを分析した結果から最適なプロモーションをタイムリーに提供できるようになる。こうしたテクノロジーの進化は、企業がいつでもどこでも顧客が必要とするところに存在する、Engaging Enterpriseへの変革を促すだろう」と話す。

 この小売り業の例からでも分かるのは、これからの情報システムには、スマートフォンのアプリケーションなど、外部からアクセスでき(Extend)、それに耐えられる安全性とスケールできるトランザクション処理能力があり(Transact)、分析から得られたインサイトを即時アクションにつなげられる(Optimize)という3つの要素が求められるということだ。それぞれ順に見ていきたい。

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