SAPがモバイルを主力事業にする理由と次なる展開Maker's Voice

企業にモバイル対応を訴求するITベンダーが増える中で、SAPはアプリケーションからデバイス管理までの広範なポートフォリオを掲げる。ERPのイメージが強い同社がこれほどまでにモバイル分野に注力する理由とは何か――。

» 2012年09月04日 08時00分 公開
[國谷武史,ITmedia]
SAP グローバル・モバイル・セールス&ソリューション エグゼクティブバイスプレジデントのクリス・マクレーン氏

 スマートデバイスやクラウドコンピューティングの普及、さらには、「BYOD(Bring Your Own Device)」に代表されるワークスタイルの変化を背景に、企業に対するITベンダー各社のモバイル化の訴求が活況をみせるようになった。ERPをはじめエンタープライズアプリケーション大手のSAPもそうしたベンダーの1つだが、同社はアプリケーションだけでなく、インフラレイヤに近いデバイス管理までも手掛ける。

 現在、同社のモバイルソリューションのポートフォリオは、インフラ寄りのレイヤだけでもデバイス管理の「Afaria」、メッセージング基盤の「Sybase 365 Messaging Infrastructure」があり、さらには、資産管理や業種別ソリューションを展開する「Syclo」の買収を進めている。アプリケーション寄りでは同社製品だけで120種以上がモバイルに対応済み。アプリ開発でもAdobeやAppcelerator、Senchaなどパートナーシップの拡大を進めるほか、SDKやフレームワークも提供する。これらの実行基盤となるのがSybaseである。

 こうしたポートフォリオはビジネスだけでなく、自社のモバイルインフラにもなっているという。社内ではiPadやiPhoneが2万台以上、BlackBerryが2万台近く利用され、AndroidもSamsungのGalaxyが3000台近く稼働する。Afariaの管理規模として同社は世界第2位といい、第1位は携帯電話事業者となっている。BYODは2011年の東日本大震災を契機にSAPジャパンで開始されたが、現在は全社展開を進めている最中だ。

 同社でモバイル事業を指揮するグローバル・モバイル・セールス&ソリューション エグゼクティブバイスプレジデントのクリス・マクレーン氏は、「モバイルに関して当社はユニークな立場にある」と話す。

 ベンダー他社の中にSAPのようなポートフォリオを持つところもあるが、ユーザーからみると、ソリューションとしてはインフラや開発、アプリといったカテゴリーごとに分かれている印象が強い。SAPは垂直統合に近い形でソリューションを展開する。

 「われわれは顧客企業の変革を支援するためにビジネスをしている。その重要キーワードの1つがモバイルであり、モバイルを通じて変革を実現するには、業務に必要なアプリケーションだけでなく、カスタム開発のための環境、さらにはセキュリティを確保するための管理基盤まで、これらが統合されたソリューションとして提供される必要があった」(マクレーン氏)

SAPが医療業界向けに展開するモバイルアプリのサンプル(左)。Afariaでは端末管理に加え、拠点別のデバイスの稼働状況や通信コストの分析レポートなども提供する

 企業のモバイル化に必要なソリューションの多くを用意するSAPだが、これをさらに拡大するには協業体制がカギを握る。マクレーン氏によれば、Afariaの機能をAmazon Web Servicesで利用できるようにしたほか、年末までに200種類以上のサードパーティーのアプリを同社のプラットフォーム上から利用できるようにするという。

 また通信インフラを持つ携帯電話事業者との協業体制も広げていく考え。「Verizonをはじめキャリアとの共同ソリューションの導入実績は欧米で既に数多く手掛けており、アジアでも始めている。各国キャリアとの協業も積極的に進めたい」とマクレーン氏は話している。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ