「Thin Office」を支える仮想デスクトップ基盤、導入と活用実態の全容とは?次世代オフィスの進化論(2/2 ページ)

» 2013年04月10日 08時00分 公開
[会田雄一(クオリカ),ITmedia]
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PCアプリケーションの標準化

 VDI導入を機会に、PCアプリケーションの絞り込みと標準化を徹底することにした。標準化は、セキュリティの強化やライセンス管理などのコンプライアンス対策を含む内部統制の強化、運用管理者の負荷軽減などには欠かせない。VDI上で稼働するPCのOSやアプリケーションソフトの導入、改版、機能強化、パターンファイルの更新など、全てVDIの管理担当者が確実に一括で行う。同時に利用者自身の煩わしい作業負担を減らす。理想的な姿は、全社を一つのマスターでカバーすることだ。

 だが、社内のPCソフトウェアの利用実態を確認すると、そのハードルが高いことが分かった。クオリカでは多数のソフトウェア開発業務を受託しているが、開発プロジェクトによって開発環境で使用するOSや開発ソフトウェアのバージョンが違ったり、複数のバージョンが必要であったりする。また、業務上から急いで新しいソフトウェアを導入して利用したり、パッチを当てたりすることも必要になる。

 そこで、PCアプリケーションのマスターを表3に示すように、2種類用意することにした。

 OA用マスターは、各部門の管理職、営業職、スタッフ職などの開発実務を担当しない社員が使用する。使用するアプリケーションは完全に標準化している。アプリケーションの仮想化も行い、利用者全員が同じアプリケーションモジュールを共用しているので、ストレージ使用量も効率化している。

 開発用マスターは開発プロジェクトの管理責任者の判断でアプリケーションの導入や改版を可能にしている。しかし、必ずVDIの管理担当者が定期的にチェックを行っている。

表3 表3:VDIマスターの種類と構成(クリックで拡大)

VDIシステムの機能と性能

 VDIシステムを導入するに当たり、最初の工程でVDI製品の調査と評価を行った。対象にした製品は、VMware ViewとCitrixのXenDesktopである。両社から詳しい説明や提案をもらい、比較した。また、実際にテスト環境を構築して稼働させ、機能や性能を確認した。

 クオリカが採用したのはVMware Viewだが、一番大きな判断ポイントになったのは、運用機能の充実と、クオリカのデータセンターにおける運用システムや体制との親和性だ。クオリカは早くからVMwareの製品を使用してサーバの仮想化を進めてきた。そのため、VMware製品について知見のある技術者が多くいた。現時点で、導入や運用に大きな問題が生じていないので、当時の選択は適切であったと評価している。

 また、導入計画を作成する前に改めてテスト環境を構築して、一部の社員を対象にした試行導入を行い、具体的な利用ルールなどを確認していった。その成果もあったと思うが、導入や移行は非常にスムーズに進んだ。導入を開始して1年半経つが、機能や性能について大半の社員が満足している。

システムの信頼性

 機能や性能は事前の検証などで、十分に実用に耐え得ることを確信していた。だが、一番大きなリスクは、VDIシステムの信頼性だと思っていた。1台のPCが故障しても困るのはそのPCの利用者だけだが、VDIのサーバが障害を起こすと、全社員の仕事が止まってしまう可能性がある。そのリスクを回避するため、クオリカではサーバを多重化し、障害を検知すれば自動的にバックアップに切り替わるよう設計している。しかし、こればかりは実績で信頼性を確認していくしかない。

 ありがたいことに、現時点ではシステム障害が発生して全社のVDIが利用できなくなるという事態は発生していない。サーバに障害が発生し、バックアップに切り替わるまでの数分間、一部の利用者がすぐに利用できなかったり、ストレージ上のファイル配置の問題で、一部の利用者のファイルアクセスが遅くなったりといった障害は、これまで複数回発生したが、都度改善してきている。

 現在クオリカでは、全社員と常駐のパートナー、合わせて約1000人がVDIを利用しているが、サポートセンターへのVDI関連の問い合わせは月に30件程度であり、当初予想よりも少ない。VDIの技術は、多くの企業で広く活用できるレベルにまで進歩している。わが社での利用実態を見る限り、VDIの導入と活用は難しくないと提言したい。

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