組織に潜む内部犯罪を考える(前編) 地域密着型バス会社のケース萩原栄幸の情報セキュリティ相談室(1/2 ページ)

企業や組織の関係者による内部犯罪は深刻な結果につながる場合が少なくない。あるバス会社で発覚した不正行為を参考に、内部犯罪に対する考え方について解説しよう。

» 2013年09月20日 08時00分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]

 とある地方の老舗バス会社であるA社は、その地域の住民の足となっている「路線バス」、そして「高速路線バス」を主に運営し、全営業収入の8割を超える状況となっている。昨今、規制が強化された高速ツアーバスや観光バス事業には力を入れていない。そのA社の経理部長と専務が、筆者の知人で経営コンサルタントをしているB氏に相談をしてきた。なお、今回は筆者が直接関与した事案ではなく、B氏のサポート役として2週間だけ関係したものである。さて、どういう状況だったのだろうか?

(編集部より:本稿で取り上げる内容は実際の事案を参考に、一部をデフォルメしています。)

事案

 A社はB氏とコンサルタント契約を締結している。B氏がA社を訪問するのが通例だが、A社の経理部長と専務は、わざわざB氏の事務所に伺うという。B氏はそのやり取りから、「どうやら内部不正に関係する話のようだ」と直観し、筆者の存在を思い出したらしい。専門家がいた方がいいだろうとのことで、筆者も同席することになった。

 A社は戦前から営業している中堅のバス会社である。筆者は交通分野には詳しくないが、余談ながらA社を取り巻く事業環境について解説しておくと、戦後は日本の各地に高速道路が建設され、当時「国鉄」と言われていた鉄道が次々と廃線を余儀なくされた。一部は第三セクターによる運営で継続されたが、運行間隔が長くなるなどの不便さから利用者は車にシフトし、特に車を持たない老人や学生にとって都市部への買い物や通学がさらに不便になった。そのニーズをA社のようなバス会社の路線バスや高速路線バスが吸収したようである。ドア・ツー・ドアで気軽に利用でき、近くのバス停から座ったままで目的地の近くまで行ける安心感が評判となっていた。

 歴史はこの程度にして、A社の人事部長と専務が来訪し、早速説明をした。その内容は大よそ次の通りである。

  • 高速路線バスの収益が2年程前から多少ではあるが悪化している
  • ただし利用者の反応などから、最近やっと景気が少しだけ上向いた感があり、乗車率は以前に比べると良くなっている感触はある
  • 路線ごとに収入と乗客の相関関係を調べたことはない。社員が乗客に扮して調査する案もあったが、地域のバス会社なので乗客のほとんどは顔見知りであり、調査がやり辛い

 こうした状況から、路線の経営状態について余り費用や人手をかけることなく、周囲にもあまり気づかれないような形で調査を実施できないかという相談であった。

 そこでB氏は筆者と検討し、A社にあるアイデアをお伝えした。それは、米国などでも実際に行っている車載カメラ(ドライブレコーダー)を広角撮影ができるタイプに変更するというものであった。これだと録画した映像は、本来の目的である事故などの動かぬ証拠として使えるし、入口や現金入金機兼両替機と運転手の周囲も撮影範囲になるので利用者の状況把握にも役立てられる。

 運転手の周囲に向けたカメラをもう1台設置するという案もあった。だがA社の人事部長と専務によれば、その目的を説明したり、同意を得たりするのに手間がかかるので難しいという。「監視されている」と運転手に思われてしまう懸念があった。そこで「カメラの性能アップ」を理由に、数台のバスにテストとして取り付けると運転手に説明し、カメラを交換することになった。全車両に取り付けるには運転手全員から賛同を得る必要があるという弁護士の見解もあったためである。

 実際、このカメラは10時間以上連続して録画ができるので、出発前の朝方に取り付け、車庫に戻る夜に回収することができる。通常の車載カメラは衝突事故の起きる数分前からの映像しか残らないので、長時間撮影は今回の調査だけでなく、事故時の映像記録という点でもメリットになっていた。

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