さて結果だが、ごく一部の運転手による明らかな不正行為が発見された。そのパターンは次のいずれかであった。
A社に対する地域の評判は「戦前からある由緒正しい会社」であった。その体裁もあって、たまたま発覚した運転手の不正行為について、社内での検討から「調査手段や狙いは明らかにできない」との結論に至り、「おとがめなし」とした。調査結果を全て破棄し、その上で全従業員に「広角レンズの車載カメラを正式採用する」と説明した。全員にどのように録画されるのかを説明し、長時間録画ができるメリットなどを全て正直に話し、会社の方針としてカメラの採用を宣言したのである。
B氏と付き合いのある弁護士は「日本的な解決手段だ」と言ったそうだ。偶然にも不正行為の瞬間を映像で押さえたとは言え、事前に運転手へ「監視目的」と説明していたわけではなく、その映像を証拠に懲戒免職などを行えば、一部の運転手と訴訟合戦になっていた可能性もある。「ベストではないが、地域の特性も考慮したら、そのような対応も有効かもしれない。欧米では考えられないが……」ということをB氏に告げたらしい。
後日談だが、全てのバスに新たなカメラを設置して撮影するようになったものの、それでもお金を着服する運転手が現れた。就業規則に則って処分された運転手は複数いたとのことである。
習慣とは恐ろしいもので、処分された運転手は、カメラで撮影されていることを忘れていたという。恐らく罪悪感は希薄で、「このくらいはお小遣い」という軽い気持ちでいたのだろう。大部分の真面目な運転手にとっては、実に不快な出来事だったに違いない。
次回は本事案を踏まえて、「内部不正・内部犯罪・不祥事」に関わる基本的な考えについて述べてみたい。
日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」主査。社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格。2008年6月まで三菱東京UFJ銀行に勤務、実験室「テクノ巣」の責任者を務める。
組織内部犯罪やネット犯罪、コンプライアンス、情報セキュリティ、クラウド、スマホ、BYODなどをテーマに講演、執筆、コンサルティングと幅広く活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。
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