元々、決めることが得意だったり、小さなことは決められるようになったりとしても、「決断力がある人が、決断の精度が高い人」だとは限りません。
私自身もこの連載の初回からお話している通り、間違った決断をして失敗したり周囲に迷惑をかけたりしたことが何度もあります。
リーダーが決断しているからうまくいくということではなく、リーダーの決断の精度が高いから、うまくいく確率が高い、ということなのです。
決断力があっても、決断のセンスが悪ければ結果は出ません。例えば、国内で一定の市場に普及できるポテンシャルがあるサービスが、少し軌道に乗った段階で海外への事業拡大に夢が膨らんでしまい、海外の利用ユーザー拡大に目を向けた対応を優先する決断をするとします。決して少なくないケースだと思うのですが、この場合結果としては逆に国内普及の機会を逃し、プロジェクトの中期的な成功を妨げる決断になってしまった、というのは想像に難くないです。
実際、現場のプロデューサーがそういった決断をしようとしたときに、時期尚早だと止めたことが何回かあるのですが、これはフェーズの見極め、という点においてセンスの悪い決断だと言わざるを得ない例です。
ただし、決断の精度というのは、決断の経験値(回数)とともに高まっていく側面が非常に大きいのです。
ですので、恐れて決断をしないままでいると、またSTEP1のフェーズに戻ってしまい、いつまで経っても当たり障りのない、「決断っぽいこと」でしか仕事やプロジェクトを進められなくなります。
こうなると当然、あなたがプロジェクトリーダーだった場合は、そのプロジェクトは「実質リーダー不在」となります。チームメンバーの立場で考えると一目瞭然ですが、決断するリーダーがいないプロジェクトは、現場が混乱するばかりか、非効率で結果も出ません。どんどん負のスパイラルに陥ります。
決められないリーダーよりは、
愚かだろうと決断を下せるリーダーの方がはるかにまし、
というスタンスでとにかく決断をしていくしかないのです。
では、経験値が少ない中で決断精度を高めるにはどうしたらいいか。
それは「軸を定める」ことです。
詳しくは1回目に書いていますが、私の場合、プロジェクトの目指すべき夢を描き、それに基づいた決定をするべきだと考えました。夢を正しく描けば、決断の軸はブレにくい。軸を決断の材料にすることが、精度を落とさない一番の近道です。
一方、決断の精度をにぶらせるワナも存在します。その1つを紹介すると、「顔色で決断してないか?」ということです。目の前の人の顔色、今いるユーザーの顔色……。決断にはいろいろな人たちの思いが影響します。その決断によって嫌な思いをする人もいるかもしれません。
そうしたときにありがちなのが、「チーム全員がそう言ったから」とか
「不安だからアンケートを取ってみたらそれが1位だったから」といったものを判断基準にすることです。
突き詰めると、このような自分の意見ではない決断は精度が低いです。いや、決断っぽいというだけで、決断ではまったくないです。
なぜなら、うまくいかなかったときに、チームやユーザーのせいにするのでは、責任が伴っていないからです。他人の意見は重要ですが、あくまで「材料」。STEP1でお話した「自分の中の答え」を出して決断しているかということが、あくまで決断精度を高めるカギなのです。
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