今回は、日本能率協会の最新調査とジャーナリスト・田原総一朗氏の講演での話から、経営者が心掛けるべき人材強化の勘所について探ってみたい。
日本能率協会が先頃、2013年度「当面する企業経営課題に関する調査」の結果を発表した。この調査は、同協会が企業の戦略立案や経営課題解決に役立つ情報を提供するため、1979年から国内主要企業の経営者を対象に、企業の経営課題に関する内容をテーマに実施してきたものだ。
今回で35回目を数える同調査は今年8月に実施し、全国の上場および非上場企業662社から回答を得たという。
ここでは同調査の中から、大手企業が現在および3年後に挙げる経営課題に注目したい。この調査については、662社のうち従業員3000人以上の135社の回答結果を集計したとしている。
それによると、現在の経営課題では、51.9%が「収益性向上」と回答。次いで「売り上げ・シェア拡大」35.8%、「新製品・新サービス・新事業の開発」25.2%、「グローバル化」23.7%、「事業基盤の強化・再編」20.0%、「高コスト体質の改善」19.3%、「人材の強化」18.5%という結果となった。(図参照)
一方、3年後の経営課題では、36.3%が「人材の強化」と回答。次いで「事業基盤の強化・再編」34.1%、「新製品・新サービス・新事業の開発」32.6%、「収益性向上」および「グローバル化」31.9%、「技術力・研究開発力の強化」23.0%という結果となった。
興味深いのは、現在では7位の「人材の強化」が、3年後にはトップに浮上していることだ。現在は株高や円安を追い風に自社の収益基盤の強化を急ぐ一方で、今後は人材強化が大きな課題になると考えている経営者の意識がうかがえる。
では、どうすれば人材を強化できるのか。この課題についてジャーナリストの田原総一朗氏が講演で語っていた内容が非常に興味深かったので紹介したい。ちなみに田原氏の講演は、オープンソースソフトウェア事業を推進するレッドハットが11月15日、都内ホテルで開催した「レッドハット・フォーラム2013」の特別基調講演として行われたものである。
田原氏の講演では「時代を読む〜日本経済の行方」をテーマに、アベノミクスに対する政治的、経済的な懸念とともに、日本企業が抱える問題点についてもさまざまな観点から同氏ならではの見解を聞くことができた。
これまで数多くの企業トップへの取材を通じて聞いた話を基に、同氏は人材強化におけるポイントをいくつか挙げた。その中から印象深かったメッセージを2つ紹介しておこう。
まず1つは、「自分の頭で考える社員を育てよ」だ。同氏によると、とかく日本企業では上司から指示された仕事を指示された通りに行うケースが多く、それでは新しい発想など生まれてこないという。
では、自分の頭で考える社員を育てるために、経営者が心掛けるべきことは何か。「仕事に対してチャレンジさせる環境を作ることが重要だ。特に若手社員にはそうした場をどんどん与えるべきだ。最初はまず失敗するだろう。失敗したらまたチャレンジさせる。再チャレンジさせることが大事なのは、失敗したときこそ、次に失敗しないように自分の頭で一生懸命に考えるからだ」と同氏は語る。
もう1つは、「社員にプライドを持たせよ」だ。「プライドこそがモチベーションアップにつながり、ひいては新しい発想を生み出す原動力になる」と同氏は言う。ただし、だからといって何の取り組みもなく「プライドを持て」と言っても社員には響かない。
では、社員にプライドを持たせるために、経営者が取り組むべきことは何か。同氏によると、例えば、自社の得意分野でシェアトップを目指すなどの明確な目標を掲げ、それに向かって一丸となって動く環境を作り、その充実感や達成感を共有できるようにすることだという。
改めて考えてみると、この2つのポイントの意味するところは相通じるものがあるだろう。さらに言えば、以前から指摘されていることでもある。だが、同氏いわく、この2つのポイントは名経営者といわれる人たちの多くも苦労を重ねてきたテーマだそうだ。
「自分の頭で考える社員を育てよ」、そして「社員にプライドを持たせよ」。田原氏が語ったこの2つのメッセージは、まさしく経営者が心掛けるべき人材強化の勘所だろう。
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