なぜファンは西武ドームに何度も詰めかけるのか西武ライオンズのマーケティング改革(2/3 ページ)

» 2014年02月06日 08時15分 公開
[伏見学,ITmedia]

ファンの「量」よりも「質」を優先

 上述したように、西武ライオンズの戦略はロイヤルカスタマーの獲得である。従って、やみくもにファンクラブ会員数を増やすのではなく、今いるファンに満足してもらうことを最優先に考えている。現在ファンクラブ会員数は約9万人で、実は過去5年間でそれほど数字に変化はない。一方で、ファン一人当たりの平均来場回数は着実に増えており、今では西武ドームに来場する観客のうち、約半数がファンクラブ会員だという状況にある。

 ただし、Lポイントやステージ制度という仕組みを導入しただけで、西武ドームへのリピート率が向上したり、購入額が増えたりするほど単純ではない。そうしたファンクラブ会員の行動を促すのが、CRMシステムを活用した各種キャンペーンなのだ。

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 西武ライオンズのCRMシステムは、元々、全日本空輸(ANA)のマイレージシステムをベースに千葉ロッテマリーンズが開発したものを、西武ライオンズ仕様にカスタマイズしたシステムだ。ファンクラブ会員ごとのデータベースがあり、チケットやグッズの購入履歴やお気に入り選手といったデータを管理できる。そうしたデータを基にメールマガジンでキャンペーンを打ったり、西武ドームの試合と併せたイベントを企画したりすることで、購買や来場の促進につなげる。

 加えて、過去数年間の来場者傾向などのデータを分析し、この期間だとどのくらいのファンが来るというのが予測できるので、そこに合わせて大型なキャンペーンを展開する。データやノウハウは蓄積されていくので、予測の精度は毎年上がっているそうだ。

 それを体現した例が、2013年に実施した「Saitama」ユニフォームの関連企画である。同年にファンクラブ入会した全員にオリジナルユニフォームであるSaitamaユニフォームをプレゼントし、これを着用して西武ドームに足を運びたくなる仕掛けを展開した。具体的には、6月に開催した「GO! ファンクラブシリーズ」、7月の「埼玉vs.千葉ライバルシリーズ」、そして8月の「埼玉フェスタ2013」だ。この3つのイベントで、約9万人のファンクラブ会員が動員できるようにしたという。

 ただし、基本戦略はあくまでも量より質。「一度のキャンペーンで来場者数を1万人増やすのではなく、試合ごとに数百人ずつの積み重ね」だと佐々木氏は語る。以前、試験的にチケットをディスカウントして量を狙うような施策を講じたこともあったそうだが、長い目で見ると、多くのファンが上位ステージに昇格し、そのロイヤリティを維持してもらうことが最も効果的だと考える。

 「じわじわと定着させていくことが大切。単発で大幅な割引をするよりも、例えば、ファンが好きな選手の活躍を伝えて、西武ドームに来場したらその選手の限定グッズがもらえるとか、その選手が先発したらチケットが少しオトクになるとか、こうしたカードごとの小さな取り組みを大事にしていきたい」(佐々木氏)

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