モバイルトラフィック増加で懸念される通信危機Weekly Memo

シスコシステムズが先週発表した予測調査によると、世界のモバイルデータトラフィックが今後4年間で約11倍に増加するという。果たして通信危機に陥らないか。

» 2014年02月17日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

日本のトラフィックは今後4年間で9倍に

 シスコシステムズが2月14日、2013〜2018年の5年間における世界および日本のモバイルデータトラフィックの推移における予測調査の結果を発表した。

 それによると、世界のモバイルデータトラフィックは、今後4年間で11倍近く増加し、2018年には年間190エクサバイト(以下EB、1EBは10億Gバイトに相当)に達するという。ちなみに年間190EBという数字は、2000年に生成された全てのIPトラフィック(固定とモバイル)の190倍になる。

 2013〜2018年の5年間の推移を月あたりのトラフィックで見ると、2013年が1.5EB、2014年が2.6EB、2015年が4.4EB、2016年が7.0EB、2017年が10.8EB、2018年が15.9EB。年間平均増加率は61%に達する。中でも2016〜2018年で2倍に膨れ上がるとしている。

 一方、日本のモバイルデータトラフィックは、今後4年間で9倍近く増加し、2018年には月あたり1.8EBに達するという。2013年からの推移は、2013年が205ペタバイト(以下PB)、2014年が350PB、2015年が567PB、2016年が874PB、2017年が1.3EBで、年間平均増加率は55%。日本も世界と同じく2016〜2018年で2倍に膨れ上がる見通しだ。

会見に臨むシスコシステムズ グローバルテクノロジー政策担当のロバート・ペッパー バイスプレジデント 会見に臨むシスコシステムズ グローバルテクノロジー政策担当のロバート・ペッパー バイスプレジデント

 発表会見で説明に立った同社グローバルテクノロジー政策担当のロバート・ペッパー バイスプレジデントは、「日本のモバイルデータトラフィックは、2018年に世界の11%以上、アジア太平洋地域の26%を占めるようになる」と、日本の影響力の大きさを強調した。

 ペッパー氏は、世界のモバイルデータトラフィックが増加する要因として、モバイルユーザーやモバイル接続数の増加、モバイル通信の高速化、モバイルビデオ(動画)の増加の4つを挙げた。モバイルユーザーについては2013~2018年に41億人から49億人に増加し、モバイル接続については2013〜2018年にモバイル対応デバイスとM2M(Machine to Machine)接続の総数が70億件から100億件以上に増加する見通しだという。

 また、モバイル通信については2013〜2018年に1.4Mbpsから2.5Mbpsへと2倍近く高速化し、モバイルビデオについては2013~2018年にトラフィック全体に占める割合が53%から69%に増加する見通しだとしている。

求められる通信危機回避への対策

 では、デバイスタイプ別に見た場合の平均トラフィックについては、2013年から2018年に向けてどのように変わるか。シスコの調査結果では下図のようになった。2018年には、世界のモバイルメディアトラフィックの約94%をスマートフォン、ノートPC(ラップトップ)、タブレット端末が占めると予測。また、世界のモバイルデータトラフィックの5%をM2Mトラフィックが占め、ベーシックな携帯電話が占める割合は1%になる見通しだ。

デバイスタイプ別の平均トラフィックの推移 デバイスタイプ別の平均トラフィックの推移

 調査結果ではこのほか、モバイルクラウドのトラフィックが2013〜2018年に年間平均増加率64%の割合で12倍に増加することや、混雑時のモバイルデータトラフィックにおいて2013年の段階で平均的な時間帯を66%上回っていたのが、2018年には83%に達するといった見通しも示された。

 ただ、こうしたモバイルデータトラフィックの増加が予測される中で、浮かび上がってくるのがネットワークキャパシティの限界を超えて、いわゆる「通信危機」に陥らないかという懸念だ。

 通信危機をめぐっては、かねて深刻な問題として警鐘が鳴らされてきたが、いわゆるビッグデータの活用が喧伝されるようになってから、あまり話題に上らなくなったような気がする。もちろん、このところの技術革新はめざましいものがあるが、今後、通信危機に陥る可能性はないのか。この点について、ペッパー氏に会見の質疑応答で聞いてみると、次のような答えが返ってきた。

 「ネットワークキャパシティについては、通信トラフィックが今後さらに増加していく中で、一層大きな問題としてクローズアップされるようになるだろう。その意味では、今後も光回線設備の増強や、有線と無線の組み合わせによる上手な使い方を追求していかなければならない」

 やはり、通信危機に対する問題意識は強くあるようだ。この問題については筆者も折りに触れて取り上げてきたが、改めて持論を述べておきたい。ICT業界には通信網の負荷拡大への危機打開に引き続き懸命に取り組んでいただくとして、この現象は、ひいてはエネルギー問題をはじめ、さまざまな社会問題とも関係していく出来事だと考える。

 物理的なものが足りなくなる可能性がある中で、技術でそれを乗り越えようというだけでいいのか。ビッグデータの活用といっても、無駄なデータは省きたいところだ。いや、無駄だと思われるデータにこそイノベーションの種がある、との考え方もあろうが、活用するデータを取捨選択しマネジメントすることこそが人間の知恵だと考える。

 今後、ビッグデータを活用していくうえで、通信危機によって急ブレーキがかかることのないように、今からしっかりとした対策を講じることが必要ではないだろうか。

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